【5月25日 AFP】フランス・パリで、新型コロナウイルス感染防止のため閉鎖されている公園の入り口の鍵を夜な夜な開けてまわる謎の人物が、小さなアパートに缶詰め状態で生活する市民たちの間でちょっとした英雄となっている。

 欧州の首都でも人口密度の最も高いパリでは、感染対策のロックダウン(都市封鎖)が始まってから8週間以上にわたり、市内の公園の門扉が施錠されている。

 アンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)市長は、公園も市内の道路と同じ扱いとし、マスク着用を条件に散策などでの利用を認めるよう仏政府に要請しているが、政府側に方針転換の気配はない。オリビエ・ベラン(Olivier Veran)保健相は、パリとその周辺地域が感染者の多い「レッドゾーン」指定から除外されない限り、公園の閉鎖は継続すべきだと主張している。

 そうした中で気温が30度近くまで上がった先週、巣ごもり生活に疲れ果てたパリ市民が芝生に座ってバラの花の香りを楽しめるよう、夜になると各地の公園に出向いて門の鍵を開けていたと告白する男性が新聞記事に登場した。

「ジョゼ(Jose)」と名乗るこの男性は大衆紙パリジャン(Parisien)に、アメコミヒーローの「バットマン(Batman)」よろしく夜な夜な活動し、パリ北部や東部のあまり裕福でない地区で公園を解放してまわっていると語った。

「鍵破りの怪人」は既にファンを獲得しているようで、市内北東部にあるベルビル(Belleville)公園の柵には22日、「ありがとう、ジョゼ!」と手書きされた紙が2枚つるされていた。

 フランスは11日に段階的なロックダウン緩和に踏み切ったが、それ以降、公園の閉鎖に対する不満が高まっている。

 市中心部の歴史的建造物「廃兵院(アンバリッド、Les Invalides)」前の芝生では、ピクニックを楽しむ人々を警察が強制的に退去させる出来事が2日間で2度もあった。サンマルタン運河(Canal Saint-Martin)でも、岸辺に座り込んだ数百人を警察が追い払っている。

「パリのアパートはとても狭い。ロックダウンは緩和されつつあるはずなのに、どこもかしこも閉まっている」と「ジョゼ」氏は訴えている。なお、同氏によると「鍵開け」はあくまで趣味であり、「普通の仕事」で合法的に生計を立てているそうだ。

 外出制限が最も厳しかった期間、パリ市民の4分の1は市外へ脱出し、郊外の別宅などで暮らしていた。だが、貧困層や必要不可欠な仕事に就いている人々は、例年になく晴天の多かった春の間も狭いアパートの中で過ごすことを余儀なくされていた。(c)AFP/Fiachra GIBBONS