【6月6日 AFP】パキスタンのトランスジェンダーの多くは経済的に苦労しているが、ダンサーのアドナン・アリ(Adnan Ali)さんは、披露宴や出産パーティーでダンスを披露することで快適な暮らしを送っていた。

 だが、新型コロナウイルスの流行で、結婚式場は閉鎖され、パーティーは中止となった。収入が途絶えたアリさんは、イスラマバードの裕福な郊外に借りていたマンションから退去するしかなかった。

 現在アリさんは、同じく新型ウイルス流行による全国的なロックダウン(封鎖措置)で仕事を失ったトランスジェンダーのダンサーらと、支援センターの中の狭い部屋を共有している。

■「第3の性」認められるも続く苦境

 パキスタンでは2009年、他国に先駆けて第3の性を法的に認めた。2017年からはトランスジェンダーの記載のあるパスポートの発給を開始。選挙でトランスジェンダーの候補が出馬した例もこれまでに複数ある。

 このような統合の兆しはあるものの、大半のトランスジェンダーは社会から敬遠され、暴行やレイプの被害者にもなっている。ダンスだけで生計が立てられないトランスジェンダーは、性産業に身を投じたり、物乞いとして暮らしたりせざるを得ない。

 この支援センターは通常、10人ほどのトランスジェンダーを支援していたが、この数か月間でその数は70人以上に急増した。利用者には、地元の寄付の支えで食料が提供されている。

 滞在できる部屋数は少なく、すぐに満室になってしまった。受け入れスペースを最大限にするために、床で寝ている人もいる。

 センターを設立したメーキャップアーティストのナディーム・カシシュ(Nadeem Kashish)さんは、多くの人を断らなければならなかったと嘆く。路上では何十人もの職を失った人々が、道ゆく人に食べ物を求めている。

 カシシュさんは「問題は今後も大きくなるばかりで、なくならないだろう。先の見えない不安が、精神的・生理学的な問題を引き起こしている」と語り、ダンサーらがかつての経済的自由を取り戻すことができるかどうか疑問視している。(c)AFP/Sajjad TARAKZAI