【6月7日 AFP】原因不明の死に至る病気が猛威を振るい、欧米では恐怖におびえた人々が急ごしらえのマスクで顔を覆うようになっている。今から1世紀以上前、旧満州(Manchuria、現中国東北部)でペストが流行したとき、マスクは最も分かりやすい伝染病対策の防護具として不動の地位を築いた。

 新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせるために各国政府が現在採用している隔離や濃厚接触者の追跡といった措置はすべて、数世紀にわたって蓄積された伝染病対策を下敷きにしている。

 今日、医療従事者に個人防護具(PPE)を支給する取り組みや、公共の場でのマスク着用の是非をめぐる議論は、伝染病についての理解が進むにつれて、顔を覆う効果に対する考え方もまた進化してきたことを表している。

 米エール大学(Yale University)教授で医学史家のウィリアム・サマーズ(William Summers)氏によると、ヒトからヒトに伝染し得る病気があるという認識は、少なくとも1500年代以降から「真面目な医学理論として」存在している。

 だが、科学者たちが微生物の存在を突き止め、感染の仕組みを説明する「細菌論」を発展させたのは、1800年代半ばになってからだ。AFPの取材に応じたサマーズ氏によると、それ以前の「伝染病予防用のマスクは、魔よけのお守りに近かった」。

 1890年代にはすでに手術室の中ではマスクが一般的になりつつあったが、そんな時期に香港で発生した伝染病が世界中に広がった。この病原体は1910年に、当時ロシアと日本、清国が覇権を争っていた満州に到達した。致死率100%に近いペストだった。

 対策の陣頭指揮を執るために派遣された専門家の中に、マレーシアで生まれ、英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)で教育を受けたウー・リエン・テー(Wu Lien Teh)という若い医師がいた。