【5月23日 AFP】殺害されたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ(Jamal Khashoggi)氏(当時59)の息子たちが22日、犯人たちを「許す」と表明し、同氏の婚約者だった女性が非難している。

 米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)のコラムニストでサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Crown Prince Mohammed bin Salman)に批判的だったカショギ氏は、2018年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された。トルコ当局によると、同氏は領事館内でサウジ関係者15人に絞殺されて遺体をバラバラにされ、遺体はまだ発見されていない。

 米中央情報局(CIA)と国連(UN)の特別報告者はいずれも、ムハンマド皇太子が事件に直接関与していたと結論付けているが、サウジ政府は「ならず者」による犯行だと主張し、皇太子の関与を断固否定している。

 カショギ氏の息子、サラー・カショギ(Salah Khashoggi)氏は22日、「(イスラム教の断食月)ラマダン(Ramadan)のこの聖なる夜に…殉教者ジャマル・カショギの息子である私たちは、父を殺した人々を許し、恩赦を与えることを発表する」とのメッセージをツイッター(Twitter)に投稿した。

 サウジ当局は、サラー氏の発表が持つ法的効力について今のところコメントしていないが、遺族の恩赦によって、昨年12月に死刑判決を受けた5人(名前は公表されていない)の助命につながる可能性があるとみられている。

 サウジの作家で、政府に近いアナリストのアリ・シハビ(Ali Shihabi)氏は、カショギ氏の遺族にはシャリア(イスラム法)により「殺人者に損害賠償を求める」権利があると指摘している。

 ワシントン・ポストは昨年、サラー氏を含むカショギ氏の子供たちが当局から数百万ドル(数億円)相当の住宅を数戸受け取り、毎月数千ドル(数十万円)の金銭を受け取っていると報道。サラー氏は報道内容を否定し、サウジの独裁的な統治者と金銭的示談について話し合った事実はないと主張した。

 一方、サラー氏の今回の発表を受け、カショギ氏の婚約者だったハティージェ・ジェンギズ(Hatice Cengiz)さんは怒りをあらわにし、「この極悪非道の犯罪に責任を負うべき人々を無罪放免する国際法やサウジの法律、イスラム法などない」とAFPに語った。

 カナダのウォータールー大学(University of Waterloo)のベスマ・モマニ(Bessma Momani)教授はAFPに対し、「カショギ氏の息子たちが父親の殺人犯たちを許すとしてサウジの支配層から受ける屈辱にさらに耐えなければならないのは悲しいことだ」と述べ、「この許しが自発的になされたということにしてしまうと、息子たちが、父親を殺された事件の背後にあったのと同じ政治権力の中枢から大きな政治的・社会的圧力をかけられている可能性を無視することになる」と指摘した。(c)AFP/Anuj Chopra with Mohamad Ali Harissi in Dubai