【5月22日 Xinhua News】中国遼寧省(Liaoning)大連市(Dalian)にある「中国導盲犬大連培訓基地」は、中国大陸地区で最初に設立された盲導犬の繁殖、訓練などを行う非営利組織。現在は約80匹に訓練を実施しており、委託訓練の体制も確立されている。同基地で訓練された盲導犬は、全て視覚障害者に無償で提供される。

 施設は2006年に開設された。設立者で「中国盲導犬の父」と呼ばれる王靖宇(Wang Jingyu)さんは「最初の1年で5万人から盲導犬の申請を受けた。事務所の電話もパンク状態だった。ただ、この年に訓練を終えたのはたった2匹だった」と当時を振り返る。

 王さんは日本への留学経験があり、広島大学(Hiroshima University)で動物行動学の博士号を取得している。2001年に卒業すると、大連医科大学(Dalian Medical University)実験動物センター主任に就任した。王さんは幼い頃から十数種類の動物を飼育し、動物に対して特別な感情を持つ。盲導犬訓練施設を自ら手掛けようとした理由については「2004年のアテネパラリンピックで、多くの選手が盲導犬を連れているのをテレビで見た。曽祖母は目に障害があったので、視覚障害者についてもずっと関心を持っていた。そのようなことから、自分で盲導犬を育てたいという考えにたどり着いた」と語った。

 中国で当時、盲導犬の訓練は未開の分野だった。王さんは自分で資料を調べ、また専門家に尋ねるなどして手探りで前に進むしかなかった。施設を設立する前は自宅で犬を育て、犬や餌の購入費も自分で賄った。家族の理解を得るのは難しかったが「私がやらなくてもいずれ他人がやる。これから必要となる事業なのでやるなら早い方がいい」と説得した。

 王さんの奔走により施設は開設されたが、その後も訓練士の離職率の高さに悩まされた。仕事のきつさに比べ、収入が低かったからだ。施設で働き10年になる訓練士の王林(Wang Lin)さんは「訓練士は1人で少なくとも6匹の訓練犬の面倒を見なければならない。犬舎の掃除から餌やり、訓練と毎日とにかく動き回る。午前中は水を飲む暇もない」と説明する。万歩計の歩数は毎日2万歩を超えるという。

 離職率の高さは、事業が公益性であることによる資金不足が原因だった。王靖宇さんによると、盲導犬を訓練するのにかかる費用は1匹当たり15万~20万元(1元=約15円)。うち7割が訓練士の給与だという。訓練した盲導犬を売ればよいと勧める人もいたが、王さんは首を縦に振らなかった。「盲導犬事業は視覚障害者に希望をもたらすものでなければならない。中国の視覚障害者の多くは生活条件が良くない。市場化してしまえば彼らを失望させることになる。絶望を感じる人もいるだろう」と説明する。

 遼寧省には視覚障害者が約30万人いるが、同施設が設立から今までに訓練した盲導犬は200匹余りにすぎない。大連市も2010年から訓練を終えた盲導犬1匹につき6万元の補助金を支給している。同施設は昨年、政府の補助金と社会からの寄付金により収入が初めて支出を上回り、当面の資金問題は緩和された。

 訓練を終えた盲導犬も設立当初は年間一桁だったが、昨年は三十数匹にまで増えた。訓練成功率も20%から50%に上昇している。王さんは「ここ数年は訓練士の人数も増え、施設も十数年の訓練経験を積んだ。今後はますます良くなる」と語った。(c)Xinhua News/AFPBB News