■「希望的観測」

 モスクワ大学(Moscow State University)の生物学者で長寿を研究するマキシム・スクラチェフ(Maxim Skulachev)氏(46)は、老化のプログラムはわれわれの遺伝子に組み込まれている可能性があり、「理論上阻止できる」とするバイオハッカーらの主張は正しいと指摘する。

「老化」は人のゲノムにプログラムとして導入されていると考えることができ、「老化と闘う唯一の方法は、このプログラムを破壊──ハッキングすることだ」とスクラチェフは話す。

 そして、ハッキングすることができれば、加齢に伴う諸問題やがんをなくすことが可能となり、寿命100歳も当たり前にもなるだろうと述べる。しかしその一方で、寿命を制限する「新たな健康上の問題」に超高齢者が直面することも予想できるとしている。

 老化の遺伝学的プロセスに介入する薬の開発を目指して研究チームを率いるスクラチェフ氏は、バイオハッカーの問題は「先走りしすぎている」ことだと指摘する。

「現時点では(老化)プログラムを破壊する技術は存在していない。この観点に立てば…バイオハッカーが取り組んでいるのは希望的観測だ」

■「自らをアップグレード」

 だが、ロシアではバイオハッキングがすでに「大きな運動」となっており、これをテーマにした会議の開催や関連事業の立ち上げが続いている。そうした状況を説明する起業家のスカクンさん自身も、約2年前にスタートアップ「バイオデータ(Biodata)」を立ち上げ、検査の手配やクライアント情報の保存を行っている。15万ルーブル(約22万円)を支払えば、より精密な検査も受けられる。訪れるクライアントは「主に経営幹部や実業家」だという。

 他方で、モスクワには「バイオハッキング実験室」と宣伝するジムも存在する。富裕層向けのサービスを提供するジムの年会費は、最大25万ルーブル(約36万円)となっている。

 このジムは昨年、首都のオフィス街にある高層ビルの58階にオープンした。施設内には「自らをアップグレードしよう」とのメッセージが掲げられている。

 映像前半はチップを埋め込む処置を受けたプログラマーのラウトキンさんと、処置を施したザイツェフさん。後半は血液分析のため採血を行ってもらうスカクンさんと、モスクワ大学の生物学者スクラチェフ氏。2019年11、12月と2020年1月撮影。((c)AFP/Anna MALPAS and Nikolay KORZHOV