【5月17日 AFP】ロシアの医師、マリアさん(24)は、担当している患者が新型コロナウイルス検査で陽性だった場合、特別手当が支給されると思っていた。だが、給与はむしろ下がってしまった。

 身元を明かさないことを条件に取材に応じたマリアさんは、モスクワから200キロ離れた小さな町で通常は1日に3回ほど往診をしている。しかし、4月に新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)がロシアを襲うと、その数は30回に急増した。

 同月テレビでウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が、新型ウイルス感染者の治療に当たる医師に月8万ルーブル(約12万円)の特別手当を支給すると約束した時、危険や負担が増すことへの補償だとマリアさんは思った。

 往診した患者の一人がウイルス検査で陽性と判明し、マリアさんは、2週間の自主隔離を命じられた。だが、4月分の給与を受け取ってみると、金額はわずか1万4000ルーブル(約2万円)に下がっていた。

 プーチン氏が、医師らに特別手当を、また新型ウイルスと闘う医療関係者やドライバーらに月額2万5000~8万ルーブル(約3万7000円~12万円)のボーナスを支給すると約束したところを、ロシア全土の医療従事者が見ていた。

 しかし、過重労働を強いられた医師らが4月分の給与明細票を開いてみると、そのような多額の金額が記載されていた人はほとんどいなかった。多くの人が給与明細書をインターネットに投稿。そこに書かれていた特別手当は10ドル(約1100円)以下か、あるいはまったく記載されていなかった。

 ミハイル・ミシュスチン(Mikhail Mishustin)首相は13日、この問題を認めた。ミシュスチン氏によると、政府は医療従事者へのボーナスとして270億ルーブル(約390億円)を送金したが、地方当局がこれまでに支給した金額は45億ルーブル(約66億円)にとどまっているという。

 医療従事者の労働組合「行動」のアンドレイ・コノバル(Andrei Konoval)代表は、プーチン氏の指示が医療保健制度の官僚機構を伝わっていく過程で力を失ったと指摘している。

 ロシアでは、医療への従事は適切な報酬が与えられるべき労働というよりも奉仕と見なされており、大半の医療従事者は特別手当を要求することに消極的だ。

 医師のアンナさんは、「不平を言う人はいません。言ったところで状況が変わるわけではありませんから。状況が正されれば良いとは思いますが、騒ぎを起こす気はありません」と語った。 (c)AFP/Maria ANTONOVA