【5月24日 AFP】アナ・アリアス(Ana Arias)さん(40)は、鶏肉のスープを作るたび感情を抑えきれずに涙を流す。15歳の娘のお気に入りの料理だった。「彼らは私の腕から娘を奪った」

 アリアスさんは、娘のルイサニースさんからの最後のメッセージを覚えていると語った。ベネズエラからトリニダード・トバゴへ向かう運命の旅に出る前に送信されてきたものだ。

 ベネズエラでは貧困から抜け出すために多くの人がトリニダード・トバゴへの移住を試みている。そうした中、消息が分からなくなっている人も多数いる。

 昨年4月23日、ルイサニースさんは「ママ、大好き。とても恋しいよ」とメッセージを送信。数時間後に消息を絶った。

 ベネズエラ北東部スクレ(Sucre)州の町クマナ(Cumana)に暮らすアリアスさんは、自宅のリビングルームで、AFPの取材班に1枚の古い写真を見せてくれた。そこに写った小学生の頃のルイサニースさんは、青い制服を着て帽子をかぶり、縮れ毛で褐色の肌をしている。アリアスさんは、娘は人身売買業者によって「売られた」と疑っていると語った。

 野党議員のロベルト・アルカラ(Robert Alcala)氏は、人身売買業者のことを「マフィア」と呼ぶ。マフィアは不法移住のあっせんでもうけている。移住を切望する人々を耐航性の不十分なボートで、スクレ州ギリア(Guiria)から約100キロ離れたトリニダード・トバゴに渡らせているのだ。アルカラ氏は「女性は性的に搾取され、男性は(農場や工場で)体力的に過酷な仕事に就かされる」と説明した。

 ここ2年間で数百人が、ベネズエラからトリニダードやキュラソー(Curacao)、アルバ(Aruba)への密航中に消息を絶っている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、この現状はベネズエラの経済破綻から逃れる人々の「絶望を示している」という。