【5月24日 AFP】アンディンさん(31、仮名)は、トランスジェンダーであることから「救う」ためとして悪魔払いをされた記憶に悩まされている。アンディンさんは、必死に「治療」しようとする家族の嫌がらせや虐待に20年間耐えてきた。

 鍵のかかった部屋に何日も閉じ込められコーラン(イスラム教の聖典)を聞かされたり、イスラム教指導者に「性別の病」を清めるためだと氷水をかけられたりもした。

 しかし、アンディンさんの心を打ち砕いたのは悪魔払いだった。

 アンディンさんは故郷スマトラ島(Sumatra)のメダン(Medan)近くの奇妙な導師の元へ無理やり連れて行かれた。導師は遺体を覆うために使われる布をアンディンさんにかぶせ祈りをささげると、「女性としての生活を諦めるか、地獄に行くか」という究極の選択を迫った。

「悪魔払いを受けても何も変わらなかった。私は今も性的少数者(LGBT)だが、家族は簡単には諦めなかった」とアンディンさん。「トラウマになる体験だった。恐ろしい記憶が頭から離れない」

 世界最大のイスラム教人口を擁するインドネシアでは、同性愛者やトランスジェンダーの人々が悪魔払いを強制されることが珍しくない。その上、ここ数年で社会がさらに保守化し、性的少数者らはますます標的にされている。

 イスラム法を厳格に適用する保守的なアチェ(Aceh)州を除き、インドネシアでは同性愛は合法だ。

 しかし一方で、同性愛者やトランスジェンダーは悪霊に取りつかれた結果で、宗教的な儀式や祈りによって悪霊を追い出せると広く信じられている。

 性的少数者に悪魔払いを行っているアフマド・サドザリ(Ahmad Sadzali)さんは、成功例として「ある男性は、たった2回の治療ですっかり治った。治療の1か月後には女性と結婚した」と自慢した。

 ジャカルタにある6か所の診療所では、性的少数者を「治す」悪魔払いを行っていることをAFPに認めたが、それを公然と宣伝している診療所はなかった。