【5月3日 Xinhua News】静岡県静岡市駿河区にあるラーメン店「麺や厨」は4月24日、通常どおり営業しているが、新型コロナウイルスの影響で来店客はほとんどいない。

 中国人の若者、孫江明(Sun Jiangming)さんが午後2時過ぎ、店を訪れた。孫さんは看板メニューの「うっ鶏そば」を注文し、じっくりと味わった。孫さんは、具材もスープも素晴らしかったが、この店でつい最近繰り広げられた中国人留学生をめぐる心温まるエピソードが、一振りの不思議な調味料のようにラーメンの味わいを深めたと語った。

 思いもよらなかった新型コロナウイルスの流行は、多くの人々の生活を混乱に陥れた。この春大学を卒業し、実家のある中国陝西省に戻る予定だった留学生の胡金丹(こ・きんたん)さんは、新型コロナウイルスの影響で日本にとどまらざるを得なくなった。2015年に静岡県立大学に入学してから、地元で人気のラーメン店「麺や厨」でアルバイトを続けてきた胡さんは、お客からは親しみを込めて 「金ちゃん」と呼ばれていた。

 新型コロナウイルスの影響で、胡さんが搭乗するはずだった帰国便の運航が取り止めになった。借りていた部屋は解約済みの上、留学ビザの有効期限も切れたため、短期滞在ビザに切り替えざるを得なかった。胡さんはアルバイトをする資格を失った。同ラーメン店の店主、天野洋平さんは4月15日、胡さんの置かれた状況をインターネットに投稿し、支援を呼びかけた。投稿には「困っている金ちゃんを支援するために、当店は明日、弁当を販売することにしました。当日の売り上げは、全て金ちゃんに寄付します。全ての材料費は当店が負担します。みなさんの支援をお待ちしています」との内容が記されていた。

 毎週木曜日は同ラーメン店の定休日となっている。弁当販売当日の16日も木曜日だったが、従業員全員が手伝いのために駆けつけた。予約電話が相次ぎ、店外には長い行列ができた。

 忙しかった一日が終わると、天野さんは500人前の弁当の売り上げと人々からの寄付、計30万円を胡さんに手渡した。胡さんは、多くの人々の気持ちがこもった寄付金を受け取ると、感謝の気持ちを伝えようと涙を拭いながらお辞儀をし、「ありがとう」の言葉を繰り返した。

 静岡市の一般社団法人、日中交流センターに勤務する孫江明さんは取材に応じた際、チャットアプリ「微信(ウィーチャット、WeChat)」の「朋友圈(モーメンツ)」で、新型コロナウイルスの感染拡大期に同ラーメン店が中国人留学生に無私の支援を行っている動画がシェアされているのを目にし、店の前をしばしば通っている上、当事者の留学生が自身と同じ大学、同じ学部の後輩だと気付いたと振り返った。孫さんはまた、感染症の流行が暗い影を落とし、経済が停滞する特殊な時期にある現在、無私の心で中国人留学生を支援したラーメン店に対して尊敬の気持ちが生まれたと語った。

 その後、このニュースを知った東京都の日本陝西同郷会が孫さんに連絡し、関係者に相談の上、同ラーメン店の善意の行動に謝意を表すことを決定したという。孫さんは「日本ではこのところマスク不足が深刻になっている。私たちは営業を続けているラーメン店が毎日多くのマスクを必要としていると考え、マスクを届けることで謝意を示すことにした」と説明した。孫さんは4月24日、「使命」を帯びて同ラーメン店を訪ね、マスク3箱を従業員に手渡した。孫さんは「このような小さな出来事が、毎日どこかで起こっているかもしれない。この特殊な時期に、多くの人によりたくさんの温もりと希望を感じてほしい」と述べた。(c)Xinhua News/AFPBB News