■職場復帰の証明書得るためわざと感染する人も?

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)の病理学者アラン・ウー(Alan Wu)氏もまた、慎重な姿勢を見せる。「抗体があれば自分には免疫があると誰もが信じたがる」とウー氏。「だがそれは確定できない。このウイルスの抗体検査は出回ってまだ日が浅く、抗体があれば誰一人再感染しないと示すまでには至っていない」

 免疫証明という考え自体は目新しいわけではない。学童の入学時には、はしかやポリオなどの予防接種を済ませている証明が必要とされることが多い。アダルト映画業界では、出演者がエイズウイルス(HIV)や性感染症にかかっていないことを証明するシステムが数年間導入されていたこともある。

 一方、中国で開発されたシステムではさまざまな個人情報が機器に表示されるため、免疫がない人への差別を懸念する声もある。

 だがデジタルIDを専門とする企業は、プライバシーを犠牲にすることなく免疫証明書を作るのは可能だと主張する。

 デジタルIDの新興企業オンフィド(Onfido)のフサイン・カサイ(Husayn Kassai)最高経営責任者(CEO)は、個人の写真と関連付けたQRコードをスキャナーで読み取ることで、プライバシーの維持は可能だと語る。

「免疫パスポートは、自分は誰々であるという主張を証明するもので、検査結果はその人のものだ。それ以上の情報を共有する必要はない」とカサイ氏は説明する。

 プライバシーを重視するデジタルID団体のコンソーシアム「ID2020」のダコタ・グルーナー(Dakota Greuner)代表は、証明に関わるすべての事業には「個人情報をその個人の管理下に置くID技術を使用」するべきだと主張する。

 だが免疫パスポートをめぐっては、これ以外にも問題がある。例えばスタンドリー氏が指摘するように、本来の利用目的に反し、職場や通常の活動に戻れるようにわざと感染して証明書を得ようとする人が出てくることも考えられる。

「経済的、社会的に本当に苦しんで人々がいる」とスタンドリー氏。「規制が長く続けば続くほど、これから起こり得そうなのは、ロックダウンから抜け出すために自らの健康を危険にさらすことを考える人が出てくることだ」 (c)AFP/Rob Lever