【5月6日 AFP】大きなヘッドホンを着けグレーのパーカを羽織り、顎ひげを生やしたラッパーのアモックさんは、フィンランド極北イナリ(Inari)にある自宅のスタジオで、攻撃的で断続的な韻律をマイクに吐き出す。

 アモック(本名ミッカル・モラッタヤ<Mikkal Morottaja>)さん(35)が作り出すパンチの効いたリズムは、世界中のラップファンにはなじみのある音に聞こえるだろう。しかしこの歌詞は、存続が危ぶまれるフィンランド極北のイナリサーミ語で、その話者はわずか300人だ。

 先住民族サーミ(Sami)人はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北部に暮らし、10の言語がある。しかし、各国政府の容赦ない同化政策により、20世紀半ばまでに、これらの言語の話者は大幅に減った。

 だが、若い話者たちが今日、音楽やディズニーの大ヒット映画の吹き替えなどを通じ、イナリサーミ語の「黄金時代」を築いている。

 アモックさんがラップを始めたのは20年前。当時サーミ語を話せる若者は「10人以下」だったという。

 イナリサーミ語は、トナカイを家畜として飼うといった先住民の伝統を描写するには適した言語だが、例えば、宇宙空間を意味する単語がない。そのため、アモックさんは現代の概念を表現するために、言葉の革新を迫られることもある。

 アモックさんの最新のプロジェクトは、仲間のラッパー、アイル・バレ(Ailu Valle)さんとのコラボ企画だ。

 バレさんは北部サーミ語を話す。北部サーミ語はわずか2万5000人しか話者がおらず、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)によって「危機的状況にある」言語に分類されている。

 2人は米国やカナダ、欧州などサーミ語圏外の国々でラップを披露してきた。