【4月27日 AFP】新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が続く中、イタリア北部に料理のデリバリーをして日々を過ごしている自転車ロードレース選手がいる。本来なら三大ツール(グランツール)の今季初戦、ジロ・デ・イタリア(Giro d'Italia 2020)に向けたトレーニングに励むべき時期。しかしこの状況で、コンディションを保つために他に何ができるだろう?

 その選手、ウンベルト・マレンゴ(Umberto Marengo)は少なくともそう考え、トリノ(Turin)郊外をジャージー姿でパスタやピザを配達して回ることを決めた。

 マレンゴの所属するビーニザブKTM(Vini Zabu-KTM)は、まだイタリアの小さなチームにすぎず、プロツアー・サーキットでの存在感を高めようとしている段階だ。

 それでもチームは、幸運にもグランツールの一つであるジロの出場権を手にしていた。しかし5月9日に開幕予定だった大会は、イタリア国内で死者の数が2万6000人を超えた新型ウイルスの影響で延期となった。

 27歳のマレンゴも、恋人と家でじっとしているしかなかった。そんなとき、ふとアイスクリームの話題が出たのをきっかけに、マレンゴの新しい生活が始まった。

「インターネットでアイスクリーム屋を探していたら、見つけたお店がデリバリーをやっていた」「それで思ったんだ。他にも配達員を必要としているお店があるんじゃないかってね」

 そしてマレンゴは町長に連絡を取り、程なくサンドイッチを詰め込んだリュックサックを背負い、人通りの途絶えた町を競技用のロードバイクで疾走するようになった。

「お客さんはみんな驚くよ」「特に僕の場合、ちょっとでもトレーニングになるようにと思って、いつも階段で上まで行くようにしているからね」

 パンデミックは、暮らしのさまざまな面を根底から変えたが、同時に世界のスポーツカレンダーもめちゃくちゃにした。ツール・ド・フランス(2020 Tour de France)は新日程が決まり、ブエルタ・ア・エスパーニャ(Vuelta a Espana 2020)は予定通りの開催を目指しているが、ジロの開催時期はまだ不透明だ。

 一方で政府は、世界最長のロックダウン(都市封鎖)措置を期限である5月3日以降は緩める準備を進めている。そうなれば、マレンゴら選手も今の生活に区切りを付け、練習漬けの日々に戻るだろう。

 マレンゴは「一番は地域の役に立てることだ」とデリバリーのやりがいも口にするが、選手としてのコンディション維持は簡単ではない。多ければ一日に30件の配達をこなし、ジロの平均ステージ距離の半分にも満たない70キロメートルを走れた日もあるが、「できるだけ早い配達を心がけてはいるが、普段の練習には及ばない」という。

 それでも、ロックダウンには良いこともあった。ジムが閉鎖され、トレーナーから課されるつらい体力トレーニングをやらなくてもよくなったのだ。

「ジム練は昔から苦手だった」「それもまた、デリバリーを始めた理由の一つだ。配達していると頭がすっきりするんだ」 (c)AFP/Marco BERTORELLO