【4月25日 AFP】サッカー元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ(Andres Iniesta)は、23日に配信されたドキュメンタリー映像の中で、同国1部リーグのFCバルセロナ(FC Barcelona)時代にうつ病に悩まされていたときの様子を告白した。それは、母親が「底なしの深み」というほど深刻で、当時25歳の青年が両親に一緒に寝てもいいか尋ねるほどの状態だった。

 動画配信サービスの楽天TV(Rakuten TV)で公開された「アンドレス・イニエスタ -誕生の秘密-(Andres Iniesta The Unexpected Hero)」では、同選手が2018年にJリーグ1部(J1)のヴィッセル神戸(Vissel Kobe)に移籍した際の一部始終が記録されている。

 2009年に当時バルセロナを指揮していたジョゼップ・グアルディオラ(Josep Guardiola)氏の下で欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League 2008-09)制覇を成し遂げた後、イニエスタはけがとの闘いに直面し、さらには友人であるRCDエスパニョール(RCD Espanyol)所属のDFダニエル・ハルケ(Daniel Jarque)氏が心臓発作に襲われ、26歳で亡くなるという衝撃に見舞われた。

 イニエスタは、「日にちが経過してもちっとも良くならないと感じた。気分はすぐれないし本来の自分ではなかった。すべてが雲に覆われて暗闇になっていくんだ」とすると、ハルケ氏の死について「あれはボディーブローというか、何か強烈なもので再び殴り倒されたかのようだった。かなり落ち込んでしまったよ。明らかに調子も良くなかったしね」と付け加えた。

 当時のうつ状態については、母親のマリア・ルハン(Maria Lujan)さんや父親のホセ・アントニオ(Jose Antonio)さんらイニエスタに最も近しい人々も語っている。マリアさんは、「ある夜、息子の具合が良くないと気付いた。私たちが下の階で寝ていたら彼が下りてきて、『母さん、一緒に寝てもいいかな?』と聞いてきたの」「そのとき、世界がひっくり返ったと思った」と振り返った。

 ホセ・アントニオさんは、「25歳の息子が真夜中に下りてきて、自分の両親と一緒に寝たいなんて良いはずがない。息子が『具合が良くないんだよ、父さん』と言うので『どうした?』と聞くと、『分からない、気分が良くないんだ』と答えた」と明かした。

 さらに、自分の息子はサッカーを休むべきかもしれないと考えたといい、「サッカーから離れるべきなのではないかと考えたこともあった。なぜなら、最も重要なのは彼自身だから」と語った。

 その後、イニエスタは精神分析医のインマ・プッチ(Inma Puig)氏の治療を受け始めた。回復にはグアルディオラ氏ら周囲の力に頼るところが非常に大きいと考えたというプッチ氏は、「グアルディオラ氏は、指揮官としてこんな状況は初めてだと話していました」「『今、最も重要なのはアンドレス個人としてであり、選手としてではない』と彼が話していたのを覚えています」と振り返った。

 一方、グアルディオラ氏は、「選手たちは人間であり、これは実に人間的な問題であり世界中の多くの人々が抱えていることだ」「選手たちは、私たちが彼らのためにいるということを分かっている必要がある」と強調。

 マリアさんは、「グアルディオラ氏が底なしの穴から出られるようにしてくれました」と語った。

 バルセロナから盛大に送り出してもらったにもかかわらず、イニエスタは日本への移籍を決断したのはクラブ幹部との関係が影響したとほのめかし、「クラブの人々は自分が退団するなんて考えてもいなかった」「すべての物事がそうであるように、話すべきときに話し合えないなら、その関係にはもう後戻りできない時がくる」と語った。(c)AFP/Thomas ALLNUTT