■家族と医療現場のはざまで

 ニューヨークの結腸直腸外科医、リチャード・ウィラン(Richard Whelan)医師(63)が新型ウイルスに感染したのは、1か月以上前だ。しかし、ウィラン氏は自分がウイルスに対する抗体を持っているかどうか今も知らない。

 米国で最も人口密度が高い都市であるニューヨークは、世界でも最悪の流行中心地となっているにもかかわらず、いわゆる血清検査を広範でできる態勢になっていない。

 ウィラン氏は12日間ベッドに寝たきりとなり、「消耗しきった」という。同氏が勤めるレノックス・ヒル病院(Lenox Hill Hospital)は緊急性のない手術をすべて取りやめた。ウィラン氏も今は、24床ある新型コロナ専門棟で支援に当たっている。

「妻や娘に感染させたくない」と語るウィラン氏自身、年齢的に重症化リスクが高いグループに入るため、自らの回復についても確信がない。

 一方、米大陸の反対側に位置するワシントン州シアトル(Seattle)では、感染後に回復した患者の第1陣となった救急科看護師テリー・ウエスト(Terry West)さん(55)が、「ほっとした」気持ちを振り返っている。

 ウエストさんは今月5日に職場に戻った。だが完全に安心はできないでいる。ウエストさんの夫は元肺がん患者で、新型ウイルスで重症化しやすい対象に入っているからだ。再感染の確率は極めて低いとされているとはいえ、衣服や髪についたウイルスを自宅に持ち帰りたくない。

 だが、感染後のウエストさんには、そうしたリスクを冒しても、いつも進んで担当しようとしている分野がある。人工呼吸器「BiPAP」を装着している患者の看護だ。人工呼吸器は患者の吐く息を室内に放出するため、ウイルスが拡散されやすいと考えられている。

 ウエストさんは「もしも家に小さな子どもがいたり、高齢者と同居していたりして不安な場合は、喜んで出向いてお手伝いします」と語った。(c)AFP/Ivan Couronne