■ウイルスと脳

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が脳や神経系に影響を与える可能性があるというのは、科学者にとって全く予想外だったというわけではない。こうした影響は、エイズウイルス(HIV)などの他のウイルスですでに確認されているからだ。HIVは未治療の場合、認知低下を引き起こす恐れがある。

 新型コロナウイルスによる患者への神経学的影響は、脳の侵害そのものよりも、過剰な免疫反応の結果である可能性の方が高いと、医師らは現在得られている証拠に基づき見解を示している。

 脳の侵害が起こることを証明するには、脳脊髄液内で新型コロナウイルスを検出する必要がある。脳脊髄液でのウイルス検出は、24歳の日本人男性患者ですでに確認されている。男性の症例は医学誌International Journal of Infectious Diseaseで発表された。

 男性は錯乱とけいれんを発症し、画像検査の結果は脳の炎症を示していた。だが、これまでに知られている症例はほぼなく、髄液に対するウイルス検査の妥当性もまだ実証されていないため、科学者らは依然として慎重な姿勢を崩していない。

 脳画像検査と脊椎穿刺(せんし)は、人工呼吸器を装着した患者に実施するのは困難であり、さらには大半が死に至るため、神経損傷の範囲についてはまだ完全には明らかになっていない。

 だが、人工呼吸器を装着して生還する少数の患者のために、神経科の医師らの助けが必要になり始めている。

 米ロング・アイランド・ジューイッシュ・フォレスト・ヒルズ病院(Long Island Jewish Forest Hills Hospital)の神経科医ローハン・アローラ(Rohan Arora)氏は、「錯乱の症状を呈している患者の診察を数多く目にするようになった」としながら、回復した患者の40%以上にあてはまると説明した。(c)AFP/Issam AHMED