【4月21日 AFP】中南米諸国で支援団体などに助けを求めるドメスティック・バイオレンス(DV)被害者の女性や少女からの電話が急増している。新型コロナウイルス流行による外出禁止令のために、ここ数週間、家に閉じ込められている被害者女性たちは、身も凍るような責め苦に遭っている。

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 アルゼンチンでは政府が3月20日に外出禁止令を発令して以降、最初の20日間で18人の女性がパートナーや元パートナーに殺害された。電話相談の件数は4割近く増えている。

 首都があるブエノスアイレス(Buenos Aires)州ではロックダウン(都市封鎖)開始から間もなくして、母親と7歳の娘が母親のパートナーに殺害され、家の裏庭に埋められていた遺体が発見される事件が起きた。また住民の通報で警官が駆けつけると、夫が妻をハンマーで殴り殺そうとしていたという事件もあった。

 国連(UN)ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)ジェンダー平等観測所(Observatory for Gender Equality)の予備データによると、2019年の1年間に中南米諸国で殺害された女性は前年比8%増の3800人という驚くべき数字に上る。

 アントニオ・グテレス(Antonio Guterres)国連事務総長は「不幸にも多くの女性や少女が、特に本来ならば守られるべき場所、つまり自宅の中で暴力にさらされている」と指摘している。各国がロックダウンを延長し4月に入った時点でグテレス氏は、新型コロナウイルス対策の一環に「女性の保護」を盛り込むよう各国政府に強く求めた。

 アルゼンチンの女性支援NGO「ラ・カサ・デル・エンクエトロ(La Casa del Encuentro)」のアダ・リコ(Ada Rico)氏は「女性たちは毎日、パートナーや元パートナーに自宅で虐待され、レイプされ、殴打されている」と懸念を示している。

 メキシコやブラジル、チリ、他の中南米諸国でも状況は同様に深刻だ。こうした国では、被害者を適切に保護しようとする当局の取り組みが圧倒的に足りていない。

 メキシコ市にある国立女性研究所(INMUJERES)のナディン・ガスマン(Nadine Gasman)所長も、3月24日のロックダウン開始以来、「緊急通報が増えている」という。女性に対する暴力について調査し、メキシコで女性が被害者となった殺人事件を地図化したマリア・サルゲロ(Maria Salguero)氏は、外出禁止令開始以来、これまでに約200人の女性が殺害されたと推定する。

 ブラジルの新型ウイルス流行の中心地となっているサンパウロ(Sao Paulo)でも、州政府の外出禁止令発令以来、DV被害の報告が30%増えている。

 一方、夜間外出禁止令と感染拡大地域に絞った外出制限が課されているチリでは、首都サンティアゴの上流階級地区プロビデンシア(Providencia)で、DVを告発する相談などが普段の5倍にも上っている。

 チリの保健当局幹部は、新型ウイルスの危機によって「飲酒量が増え、メンタルヘルスにも影響が生じ、不安や抑うつも増大すると同時に家庭内の暴力も増えている」と警告している。(c)AFP/Sonia Avalos with AFP bureaus in Latin America