【4月21日 AFP】カナダ・モントリオールの高齢者介護施設で、数週間のうちに入居者31人が死亡した事件で、同施設で職員らが相次いで離職し、入居者らは排せつ物の処理も受けられず、食事も満足に与えられないまま放置されていた実態が明らかになった。この施設は、新型コロナウイルスが同国の高齢者介護施設にもたらした痛ましい被害を象徴する場所と受け止められている。

 この陰惨な事件が起きたのはモントリオール郊外ドーバル(Dorval)にある高齢者介護施設「ヘロン(Herron)」。

 重過失の疑いで捜査が始まり、国は高齢者介護施設の状況を把握するための調査を開始した。同国では新型ウイルス感染症により1250人以上が亡くなっているが、うち半数が高齢者介護施設で起きている。

 同施設で今月8日に父のスタンリー・ピネル(Stanley Pinnell)さんを亡くしたモイラ・デービス(Moira Davis)さんはAFPの取材に対し「はらわたが煮えくり返っている、本当に煮えくり返っている」と怒りを示した。

「突然、疑問が頭の中を駆け巡り始めた、『他にどうすることができただろう? なぜ誰も私たちに知らせてくれなかったのだろう? なぜ、なぜ、なぜ?』と」

 職員の大半が施設を離れ、救援要請を受けた保健当局は、脱水症状を起こし、数日間食事も与えられず、力なくベッドに横たわっている入居者らを発見。排せつ物にまみれている人や、床に倒れたままの人もいた。2人は亡くなっていることさえ気づかれず、数日間放置されていた。

 同施設で死亡した31人のうち、少なくとも5人については死因が新型ウイルスだったと確認されている。残る死者については、検視官が調査を進めている。

 事件について発表したケベック(Quebec)州のフランソワ・ルゴー(Francois Legault)州首相は、たった2人の看護師が残され、高齢の入居者130人の介護に当たっていたことから、「重過失」事件との見方を示した。

 その上施設所有者が、過去に薬物の違法取引や詐欺、脱税で有罪判決を受けていたと報じられると、市民の怒りはさらに強まった。

 入居者の親族らは、ショックと怒りに加え、感染予防のため面会が禁止され、何もできず無力だったことに対するいら立ちが入り交じった感情を抱えている。

 施設は現在、地元保健当局の管理下に置かれている。また施設所有者に対しては、適切な世話の継続提供を怠り、「非人道的で侮辱的な虐待」に及んだとして、500万カナダ・ドル(約3億8000万円)の支払いを求める集団訴訟が起こされている。(c)AFP/Anne-Sophie THILL