「難しい判断だった」

そうやって日々開発を続ける2台の原寸大モデルは、時が過ぎる毎にその様子を変えて行き、数回のスタ イリング・レヴューを経て最終プレゼンテーションに向けて準備が進んでいく。ダイノック・フィルムと呼ばれる薄いカラー・フィルムを貼っていたモデルは、最終プレゼンテーションに向けて塗装される。プライマーと呼ばれる下地を塗った後、シルバーに塗装され、さらにクリアコートがかけられて、本物のクルマと見分けが付かないくらい美しく仕上げられて最終プレゼンを待つ。

ここに至るまで楽しくも辛い日々があった。私にとっての初めてのポルシェとして伝説のスポーツカーである911の最終プロポーザル・モデルを作れた歓び。その一方で、ふたつの原寸大モデルを外に出した時、自分のものがカッコ悪く見えて、いったい何が違うのかと思い悩んだ日もあった。思い描いていたものがカタチにできず、ストレスのあまり出社したくない日もあった。今となってはそんな時間がどのくらい続いたのか、ほとんど思い出せない。1年、あるいはもっと長かっただろうか。

最終的に私のプロポーザルは勝ち残れなかった。マウアー部長の「難しい判断だった」という言葉も虚しく響いた。最終プレゼンの後、チームのモデラーたちの慰労会を開いた。みんな本当に頑張ってくれた。力の限り努力した。でもこれが、この業界の現実である。そしてカー・デザイナーとして仕事を続ける限り、このような日々はまだまだ続くのだ。

文とスケッチ=山下周一(ポルシェA.G.デザイナー)
(ENGINE2018年10月号)

山下周一(やました・しゅういち) /1961年3月1日、東京生れ。米ロサンジェルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで、トランスポーテーション・デザインを専攻し、スイス校にて卒業。メルセデス・ベンツ、サーブのデザイン・センターを経て、2006年よりポルシェA.G.のスタイル・ポルシェに在籍。エクステリア・デザインを担当する。