いよいよ原寸大モデルによる1対1の対決の時がやってきた。様々な要件に合わせた修正を加えた後、最後の決定が下される。

991後期型GT3のデザインは私にとって最初のモータースポーツとのプロジェクトになった。997型か らのGT3 フロント・テーマを再構築。よりモダンに立体的に見えるように奥行きを意識してデザインし た。補助灯は出来るだけ目立たぬよう奥にレイアウトし、フロントのエアブレードは空力の機能を十分 発揮しながら尚且つサイド・ビューでのフロント・オーバーハングを短く見せるのにも貢献している。

第4回「歓びとストレスが交錯した日々。」

原寸大クレイ・モデルづくりが始まると、あとは二人のデザイナーの一対一の対決となる。武蔵対小次郎、もしくはプロレスのジャイアント馬場対アントニオ猪木の勝負みたいなものである。とにかく、どちらのデザイナーも歴史に残る世界で最も有名なスポーツカーをデザインしたいというただそれだけの為に神経をすり減らし、ストレスとプレッシャーに押し潰されそうになりながら日々を過ごし、押し寄せるあらゆる設計要件と戦いながらデザインをリファインしてゆく。

初めてビューイング・ヤードに引っ張り出された2台の991プロポーザルをマウアー部長をはじめとす るほぼ全員のエクステリア・デザイナー、モデラーと一緒に様々な角度から評価検討する。時には離れて、時には近づいて。この時点ではまだ 3分の1のスケール・モデルを膨らませただけなので、スタイリングを完成させるために、いろいろとプロポーションを調整する必要がある。 

ひとことで3倍にすると言っても、1mmなら3mmになるだけだが、10mmは30mmになってしまう。スケール・モデルでは十分に大きかったヘッドライトが、原寸大にするとどうも小さく見えてしまったり、フロント・オーバーハングの長さの調整が必要だったり、あるいは反対にリアライトがやたら大きく見えてしまうこともある。部長を中心に問題点を洗い出し、ここからテープ・セッションが始まる。黒い様々な幅のフレキシブルな粘着テープを使って、例えばヘッドライトを一回り大きくしてみたり、サイドウインドウ・グラフィックを調整してみたり。テープであたかもスケッチする様に実際のモデルに貼り付けて、プロポーションを見ていくのだ。

特に911のベルトライン(サイド・ウインドウとボディの境界線)は余りウェッジ・シェイプになって もいけないし、かと言って後傾していてもいけない。まっすぐ過ぎてもカーブし過ぎていても911に見えないのだ。何度も黒テープを貼ったり剥がしたりしながら検討する。そして様々な角度から写真を撮った後、原寸大モデルはスタジオに戻され、貼られたテープの記録がちゃんと残るように、ナイフで切り込みがつけられる。最後にシルバーのフィルムが剥がされて、最初のセッションは終わり。これを何度も繰り返して、徐々に開発が進んで行く。