原寸化され、青空の下に

やがてデザイナーやモデラーは部屋から追い出され、重役と各部署の責任者が次々と部屋に入っていよいよプレゼンテーションが始まる。そこでどのような議論が交わされたかは、その時点では知る由も無い。数時間後、スタジオに広がるホッとした空気に気づいて先程のプレゼンテーション・ルームに行って見ると入 口のドアは開いたままで、もうすでに終了しているようだ。

恐る恐る中に入るとほとんど人がおらず、上司のデザイナーとひとりの同僚のみだ った。数台のスケール・モデルに囲まれて何か談笑している。上司がこちらに気づいて微笑みながら近づいてきた。そして一言、“congratulations, you got it through”(おめでとう、通過したよ)

2つのスケール・モデルはすぐさま3Dスキャンされ、そのデータを元に原寸大モデルが製作される。デザイン検討用原寸大モデルは、通常クレイと呼ばれる工業用粘土で作られる。鉄骨で組まれたフレームに発砲スチロールで大体の形を作り、その上に厚さ10cmから20cmほどのクレイを盛る。やがて室温で固まったクレイを今度は先程取り込んだ3Dスキャン・データをもとに3軸のミリング・マシーンで削っていく。この 3Dスキャナーとミリング・マシーンの登場は自動車モデリングの世界を大きく変えてしまった。

かつては モデラーたちが膨大な時間をかけて手作業でやっていたことを、今では マシーンが夜中や週末に終えておいてくれる。お陰でデザイナーは、より早く形を確認することができ、クリエイティブな作業にもっと時間を使うことが可能になった。

原寸化された私のモデルはモデラーたちの手によって表面をなだらかに削られた後、ダイノックという薄いフィルムで銀色に塗装され初めて外にあるヴューイング・ヤードに引っ張り出された。当時の現行911と共に並べられたそのモデルは空の青と地面のアスファルト色を反射して、ドイツのキリッとした青い空の下でとても神々しく見えた。

文とスケッチ=山下周一
(ENGINE2018年9月号)

山下周一(やました・しゅういち)/1961年3月1日、東京生れ。米ロサンジェルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで、トランスポーテーション・デザインを専攻し、スイス校にて卒業。メルセデス・ベンツ、サーブのデザイン・センターを経て、2006年よりポルシェA.G.のスタイル・ポルシェに在籍。エクステリア・デザインを担当する。