【4月12日 AFP】「一つどうですか?」――麻功佐(Ma Gongzuo)さん(31)は友人のスマートフォンに向かってそう言うと、黄金色の蜜がしたたり落ちる巣蜜にかぶりついた。

 このようにして撮影した動画は、動画共有アプリ「ティックトック(TikTok)」の中国版で利用者が4億人に上る「抖音(Douyin)」に投稿される。麻さんのアカウントには73万7000人のフォロワーがおり、抖音のおかげで麻さんは一種のセレブのような存在になっている。

 中国の農家は、売り上げを伸ばすための戦略として動画を制作している。動画は目の肥えた消費者に製品の原産地を直接見せることができると同時に、消費者の創造力をかき立てる田舎暮らしの様子を伝えることもできる。

「この村に戻って来ようと思っていると話すと、私は役立たずだと言われた」と麻さんは話す。麻さんは衣料品のインターネット販売会社の経営に失敗し、故郷の村に戻って来たのだった。

 だが、今では高級車に乗り、不動産を購入し、両親に家を買い、村人に仕事を提供するまで稼ぐことができるようになった。

■日常生活と田舎の風景をアピール

 麻さんは2015年、浙江(Zhejiang)省の緑豊かな山で家族が営んでいた養蜂業を継ぎ、電子商取引(EC)アプリを活用しながら年間100万元(約1540万円)の利益を上げるまでに成長させた。

 だが、売り上げが停滞し始めたため、2018年11月、村の友人たちの助けを借りながら、農場での暮らしを撮影した動画を投稿するようになった。動画は、麻さんがミツバチの巣を開けたり、上半身裸になって川で泳いだり、木を切ったりする様子を映し出している。

「自分の商品の宣伝をしたことはない。日常生活や田舎の風景を見せている。それが、人々が興味を持っていることだ」と麻さんは言う。

 中国では徐々に現金決済が減ってきており、麻さんの商品の支払いもメッセージアプリ「微信(WeChat、ウィーチャット)」や中国のEC大手アリババ(Alibaba、阿里巴巴)の電子決済サービス「アリペイ(Alipay)」などで行われている。

 麻さんによると、蜂蜜の年間売り上げは200万~300万元(約3100万~4600万円)で、この他に乾燥サツマイモや黒糖の販売も行っている。

 中国では、約8億4700万人がスマートフォンからインターネットを利用している。これが、麻さんの成功に重要な役割を果たした。

 米監査法人デロイト(Deloitte)によると、中国は世界最大のライブ動画配信市場となっている。この流れに乗り遅れまいと、抖音の親会社「字節跳動(バイトダンス、ByteDance)」は農業を営む2万6000人を対象に、動画制作の講習会を開催した。中国には抖音以外にも、快手(Kuaishou)や一直播(Yizhibo)などの動画共有アプリがある。

 アリババのネット通販サイト「淘宝(タオバオ、Taobao)」は2019年、農家の収益向上と支援を目的に、農業を営む人にライブ配信を教えるプロジェクトを立ち上げている。

 映像前半は麻さんが実際に抖音に投稿した動画。撮影日不明。後半は動画撮影に臨む麻さん。2019年11月13日撮影。(c)AFP/Ludovic EHRET