【4月14日 People’s Daily】「退院、おめでとう」。中国・チベット自治区(Tibet Autonomous Region)で唯一、新型コロナウイルスによる肺炎と診断された男性がラサ(Lhasa)の第3人民病院を退院した時、感染科主任のソランソマ(索朗卓瑪)さんは目に涙を浮かべていた。医師となって30年近く。その道のりは決して平たんなものではなかったが、チベットの医療水準は格段に進歩したと感じている。

 ソランソマさんの母親はかつて、地主に隷属して農作業をする「農奴」だった。ある時、母親は仕事中に目をけがした。重傷ではなかったのだが、治療を受けられずに失明することになる。地主には、農奴に治療を受けさせる発想すらなかったためだ。

 ソランソマさんは物心がつくにつれ、母親の目の傷を見てひそかに決意を固めていった。「大きくなったら医者になり、母親の目を治したい。多くの困っている病人、けが人を救いたい」と。

 努力の甲斐があり、1987年に四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)の華西医科大学への入学が決まる。夢の実現に向けて第一歩を踏み出したが、当初の彼女の基礎学力はまだ低かった。授業で他の学生がすぐ理解できることも、何度も復習してようやく理解ができるレベルだった。それでも彼女はあきらめず、授業以外の時間もひたすら勉強や医学知識の習得に費やし、一日も早く家族の恩に報いようとした。

 1992年に卒業すると、ソランソマさんはチベット自治区東端のチャムド市(昌都)の山間部に飛び込み、へき地の医療に臨んだ。「現地の医療条件は遅れており、私のような医大卒の医師が求められていました」

 辺境の地で医療を続けて14年。2006年にチャムド市からラサの第3人民医院に転勤した。ソランソマさんはこの数年、チベットの医療水準が大きく変化したと感じる。彼女が医師になって間もなく、農村部の診療所から患者が転院してきた。患者は盲腸だったが診療所で治療できず、転院中に病状が悪化。命を救うことができなかった。そして現在、チベットで新型コロナウイルスの感染者が確認されると、即座に医療チームが組織され適切な治療を施し、患者の回復につなげた。盲腸の患者すら救えなかった時代から、格段の進歩を遂げた。

 昨年10月時点で、チベット自治区の推定平均寿命は70.6歳。新中国成立間もない時期の35.5歳未満に比べて倍になった。医療機関は1548か所にのぼり、エキノコックス症やカシンベック病などの風土病を一掃した。貧困地域の経済的支援と医療水準の向上が両輪となり、病気をきっかけに市民が貧しくなる事態を防いできた。

「私たち代々の医療従事者は、政府の政策的配慮の下、成長することができた。これからもさらに努力し、チベットの人々の健康を守っていきます」。ソランソマさんは決意を新たにしている。(c)People's Daily/AFPBB News