【4月10日 People’s Daily】3月29日夜、中国黒竜江省(Heilongjiang)のハルビン駅ホームで発車ベルが鳴り響くと、李濤(Li Tao)さんら6人が乗る列車がゆっくりと動きだした。李さんらは武漢市(Wuhan)出身でいずれも耳が不自由だが、66日間にわたりハルビンで温かいもてなしを受け、万感の思いを込めてハルビンの人々に別れを告げた。

 1月下旬、李さんたち6人は旅行でハルビンを訪れ、市内の道里区(Daoli)にある民宿に宿泊した。しかし新型コロナウイルスの感染症が猛威を振るい始め、身動きが取れなくなった。一方、民宿の女性経営者・邢さんは彼らが武漢市から来たことを知り、心中穏やかでなくなった。「それで彼らに急いで電話をしたら、『私たちは耳が聞こえないので、会話ができません』とショートメッセージが返ってきたんです。私は何とも言えない気持ちになりました。彼らのために何かしなければ、と」

 邢さんが役所の地元出張所に相談すると、出張所はすぐ道里区本部に報告した。道里区トップの党書記・肖彬(Xiao Bin)氏はただちに指示を出した。「彼らが自宅にいるのと同じ感覚でいられるよう、われわれハルビンの人々の真心を示そう」

 出張所の張兆洲(Zhang Zhaozhou)主任は職員と共に李さんらのため食事や生活用品を渡し続けた。中国の習慣で旧暦の大みそかに食べるギョーザをプレゼントしたり、元宵節(旧暦の1月15日)にはゆで団子、立春には中国風クレープの春餅をふるまった。李さんたちが孤立感に陥らないよう、細心の注意を払った。

 武漢市にいる李さんの母親は当初、息子が心配で仕方なかった。しかし張主任が通信アプリ微信(ウィーチャット、WeChat)を通じて日々の様子を逐一報告することで、心を落ち着かせた。「李さんたちと家族に安心してもらうため、ほぼ毎日、微信でやりとりをしました」と張主任。李さんの母親は「まるで家族のように世話をしてくれました」と感謝している。

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止が進み、李さんたちは武漢市に戻ることを希望した。ハルビン鉄道局は6枚の切符を用意し、列車の車掌らには「6人に伝えることがある場合は文章で伝えるように。到着時間や、列車が遅れるなどの事情があれば必ず連絡すること」と言い含めた。

 出発を前に、張主任と道里区障害者連合会の周秀華(Zhou Xiuhua)理事長は民宿を訪れ、李さんたちにハルビンソーセージなどの特産品をプレゼントした。この民宿を何度訪れたか、張主任は数えることができないほどだ。この2か月間で、張主任と李さんたちはお互いのことを知り尽くした友人となった。

 李さんらは張主任たちに手話で感謝を伝えた。「皆さんのおかげで心も体も健康に過ごすことができました。東北料理も自分で料理できるようになり、みんな太ってしまったほどです。ここでの日々は生涯忘れません。いずれ必ず、武漢に来てください。その時は、私たちが駅で皆さんを出迎えます」。手話講師の姜暁芝(Jiang Xiaozhi)さんが伝えると、その場にいた全員の顔が紅潮し、目を潤ませていた。(c)People's Daily/AFPBB News