【4月8日 AFP】新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐる米中の非難合戦が、ここへ来て休戦に至っている。二大大国ともに矛を収めた方が、少なくとも得策だと判断したようだ。

 米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は新型ウイルスをめぐる発言の中で、挑発的な「中国ウイルス」という言葉を多用してきた。またマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官もしつこく、新型コロナウイルスを「武漢(Wuhan)ウイルス」と呼んできた。

 ただしトランプ氏は、先月26日に中国の習近平(Xi Jinping)国家主席と電話会談を行って以降、「中国ウイルス」の使用をやめ、中国政府の新型ウイルス対策への批判を控えている。

 一方、中国外務省の報道官も先月、米軍が武漢に新型ウイルスを持ち込んだとする陰謀説を広め、米当局を憤慨させていた。

■非難合戦をしている場合ではない

 この間、新型ウイルスによる米国での死者は1万2000人を超え、トランプ氏は初動対策の遅れを批判されている。中国当局者の発言にいかなる落ち度があろうとも、トランプ氏による中国批判は、自らへの批判をそらす政治的狙いがあるとみられている。

 一方、米国では医療用品の供給が危険なほど不足しており、トランプ氏は米国が輸入するマスクの半分を生産する中国を必要としている。

 米シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のアジア研究部門を率いるエリザベス・エコノミー(Elizabeth Economy)氏は、「米政府が、中国に米国への医療用品の販売を禁止するほど中国政府を疎外したいとは思っていないのは確かだ」と分析する。「そこにはまた、国際的な非難合戦を演じている場合ではない、米国人やその他の国の人々の命を守るのが先決だ、とする広範な国民感情が反映されている」

■米大統領選を見据えた利益優先

 他方、武漢での経験を生かして世界各地の新型ウイルス対策に貢献し、国際的なイメージを高めたい中国側からしても、米国とのあつれきはマイナス効果だ。

 外国政府のプロパガンダを追跡している米国務省傘下のグローバル・エンゲージメント・センター(Global Engagement Center)によると、中国国営のソーシャルメディア上ではすでに米国を非難する陰謀論は薄れつつあるという。

 中国側の目標は「トランプ氏の冷静さを保つこと」だと、米シンクタンク「カーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace)」の研究者、ダグラス・パール(Douglas Paal)氏は語る。

 米共和党のロナルド・レーガン(Ronald Reagan)政権からジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権時代にアジア担当顧問を務めたパール氏は、中国側は11月の米大統領選も見据えていると指摘する。

 パール氏によると、自国の輸出に対する国際需要の回復を最優先事項とする中国は当初、人権問題を盾にした米民主党の介入を恐れ、トランプ氏の再選が最善だと考えていた。だが、トランプ氏と争う民主党の大統領候補に、バラク・オバマ(Barack Obama)政権時代に副大統領として習主席との関係構築に大きく尽力したジョー・バイデン(Joe Biden)氏が選出される見込みが濃厚となったことから変化が生じた。

 ここへ来て、中国国営メディアが肯定的なバイデン氏像を発信していることにパール氏は驚いているという。「私が中国国営メディアを解釈したところ、中国当局は1年前ほどトランプ氏再選に前向きでないことがほのめかされている」「つまり、中国側には今、トランプ氏と何かをしようという気があまりない。少し距離を置いて、自国の利益だけを気にすればいいからだ」 (c)AFP/Shaun TANDON