【4月6日 AFP】イタリア・ナポリ(Naples)の路地で、ストリートアーティストのアンジェロ・ピコーネ(Angelo Picone) さんは鉢植えが並んだ質素なベランダから身を乗り出し、ロープにつるした枝編み細工の籠を路上近くまで下ろす。中には食料品がぎっしり。驚く通行人に、「できたら何か入れてくれ。無理なら、何か持って行ってくれ」とピコーネさんは陽気に声を張り上げる。

 この簡潔なメッセージは、貧困層への食料支援が急務となっているイタリア国内で共感を呼んでいる。

 イタリアでは新型コロナウイルスにより、わずか1か月間に1万5000人以上が死亡した。ナポリだけでも死者は200人近くに上る。ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)はイタリア経済に壊滅的打撃を与え、数百万人が少なくとも一時的な失業状態にある。

 こうした中、ピコーネさんの推進する「連帯の籠」や、路地に折りたたみ机を置く「連帯のテーブル」を介して、パンやバナナ、牛乳、イワシの缶詰から温かい作りたての料理まで、ありとあらゆる食料品を提供する支援がいっそう重要な存在になっている。

「これは連帯を示す特別なジェスチャーだ」とピコーネさんは言う。「籠はそこにある。これなら匿名性も確保できる」

 スカーフを緩く巻いた黒いコート姿の若い男性が、いきなり歌い出した。一曲終わると大きく手を振って、お辞儀を一つ。付近の建物のバルコニーから笑顔の女性たちが「ブラボー」と叫び、拍手を送る。すると男性は籠の中の食料品に手を伸ばし、スキップしながら去っていった。歌は食料品に対する男性なりのお礼だったのだ。

 ピコーネさんによると「連帯の籠」は、ナポリに伝わる約100年前の医師の逸話から着想を得たのだそうだ。

 かつてジュゼッペ・モスカーティ(Giuseppe Moscati)医師は、貧しい人々を診療した後、治療費を請求する代わりに帽子を差し出した。患者は出せるだけの硬貨を帽子に入れ、支払えなくても問題はなかったという。モスカーティ医師はローマ・カトリック教会によって1987年に列聖された。(c)AFP/Arman SOLDIN and Giovanni GREZZI