【5月10日 AFP】畑仕事や灯台守、教会の礼拝進行役、クリスマスのサンタクロース──バルト海(Baltic Sea)にある森に覆われた小島、キヒヌ(Kihnu)島では、赤いヘッドスカーフと赤いしま模様のスカートを身に着けた女性たちが何世紀にもわたり主な仕事を担ってきた。

 エストニアの沖10キロに浮かぶキヒヌ島の男性たちは、数週間、時には数か月も漁に出かけたままだったためだ。

 しかし、2008年に国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたキヒヌ島の伝統文化は今、存続の危機にある。経済的な苦しさから住民たちが次々と、仕事を求めて島を離れているのだ。

 キヒヌ文化を伝える島の公式ガイド、マレ・マタス(Mare Matas)さん(45)によれば、島民として登録されているのは686人だが、島に通年住んでいるのはその約半分の300人にすぎないという。

 漁師のマルグス・ラーレンツ(Margus Laarents)さんは自宅の裏で、取ったばかりの魚を薫製にしながら「アザラシとウが一番の問題だ」と語った。1900年代半ばに乱獲が原因で絶滅寸前となったため、欧州連合(EU)はこの2種を保護対象に指定した。これによりエストニア領海では1980年代半ばからアザラシとウが激増し、地元の魚は激減してしまった。

 マルグスさんと妻のマルゲさんは、もはや漁だけでは生計を立てていけないと話す。島の漁師の大半は、ノルウェーやフィンランドの建設現場で職を得るため一斉に村を出て行ってしまった。マルグスさん夫婦ら残った島民の多くは、家畜と作物で生活を維持している。