【4月5日 AFP】(一部更新)30年前、韓国系米国人歌手ヤン・ジュンイル(Yang Joon-il)さんの長い髪、メーキャップ、独特のファッションは観客を激怒させた。パフォーマンス中に石を投げられたり、殴るという脅しを受けたりしたこともあったという。

 だが今50歳になったヤンさんは、ユーチューブ(YouTube)で若い世代に「再発見」され、Kポップの先駆者と称賛され、思いもかけなかったカムバックを楽しんでいる。しばしば男性アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」のジードラゴン(G-Dragon)さんと比較されることもある。

 Kポップ業界は現在、年間50億ドル(約5400億円)規模と推定されており、男性スターの多くはその中性的な外見が国内外で人気を集めている。だが、ヤンさんが批判されたのはその中性的な外見だった。

 2019年12月31日にソウルで行われた小規模な公演で約2000人のファンの前に立った中年のヤンさんは、集まった人々の歓声に感無量となった。これまでそのように温かく迎えられた経験はなかったのだ。感動のため「言葉も出てこないほどだった」とヤンさんはAFPに語った。

「非常に驚いた」とヤンさんは言う。「みんなに聞いてみたい。『なぜ、私のことを好きなのと』」

 現在の反応は、ヤンさんが音楽活動を始めた頃とは対照的だ。

 1990年代初め、数十年続いた軍事政権が終わった韓国は文化面での復興は始まったばかりで、社会的価値に影響を及ぼすことはなかった。ヤンさんの外見もパフォーマンも当時の韓国の規範に合っていなかった。

 民族主義が根付いており、韓国人の両親のもとにベトナムで生まれ、米国に移住したヤンさんの多文化的な背景は歓迎されなかった。ラジオで英語を話すことを禁じられ、ある公務員から「あなたのような人が韓国人から仕事を奪う」と言われたこともあった。