■「ママ、家に帰ってこないで」

 これまで病院の心理学者らが対象としていたのは患者だった。しかし、今やその注意はスタッフに向けられている。

 仏中部のクレルモンフェラン(Clermont-Ferrand)の精神科医ジュリー・ジュネステ(Julie Geneste)氏は、これまでに受けた相談のなかで「(医療現場で)対処しきれないことへの恐れ」よりも多かったのは、「親類や友人らについての不安、彼らを感染させてしまう恐れ」に関するものだったという。「事態は、われわれの世代がこれまでに経験したことのないレベルで進行している」とジュネステ氏は言う。

 パリを中心に活動するある若い医師は、患者の一人が集中治療を受けられなかったのを目の当たりにして動揺したことをAFPに打ち明けた。「われわれはみな苦悩している…一部の同僚はショック状態にある。家族に及ぶかもしれない恐怖に人々はおびえている」

 専門職向けのコンサルタントとして医療スタッフを支援する心理学者のニコラス・デュピュイ(Nicolas Dupuis)氏は、1日の相談件数が200件に急増していることに触れながら、医療スタッフの多くは家族への愛情と患者への誠意との間で板挟みになっていると指摘する。デュピュイ氏に相談したある看護師は、仕事から帰宅するやいなやパートナーから服を着替えるように要求され、また手で顔を触るたびに注意されたことを訴えた。手は常時清潔に保っていたのにもかかわらず、その注意は数日間続いたという。

 そして、医療従事者らを最も悩ませるのは子どもの不安だという。デュピュイ氏は、ある医療従事者のケースを例に挙げ、この相談者が7歳の娘から「ママ、もし病気になったら、家に帰って来ないで」と言われ、苦しんでいたことを話した。(c)AFP/Anne CHAON