■「プリピャチではない」

「南東高速道路(South-East Expressway)」という名のこの新しい道路は、モスクワ中心部の混雑を避けて近郊の10地区を結ぶ予定だ。だがそのルートは、モスクワ・ポリメタル・プラント(Moscow Polymetals Plant)の隣にある放射性廃棄物処分場をかすめている。

 モスクワ・ポリメタル・プラントの工場はかつての極秘施設で、1970年代まで原子炉用の放射性元素トリウムを生産していた。

 1986年にチェルノブイリ原発事故が起きる前は、放射線の危険性が過小評価されていた。その時代に稼働していたこの工場は、裏側に位置するモスクワ川(Moskva River)へと下る傾斜地に、無造作に放射性廃棄物を捨てていたのだ。

「ここはプリピャチ(Pripyat)ではない」と書かれた抗議プラカードが近くにあった。プリピャチとは、チェルノブイリ原発の労働者のためにつくられた住宅街だったが、原発事故で住民は退避を迫られ、今もなお人が住むことはできない。

 モスクワの活動家らは、今年1月に建設機材の搬入を阻止した後、資金を出し合って中古のミニバンを購入。そこを拠点として寒さをしのぎながら、24時間態勢で監視活動に当たっている。隣人らは熱いお茶やビスケットを持ち寄り、活動家らを激励している。

 ソビャニン市長は1月下旬、この傾斜地に「放射性廃棄物」が埋められていることを初めて認めた。だが道路を通すルート上には「わずかな汚染の跡」があるだけだと主張した。

 市長は「専門家によれば、建設を妨げるものはない」と断言。もし工事中に汚染土が見つかれば、「モスクワから運び出す」と約束した。

 しかし、活動家のイワン・コンドラチェフ(Ivan Kondratyev)氏は、なぜ市長が具体的な数値を発表しないのか、また、なぜ問題があることを市当局が何か月も否定していたのかと疑問を投げ掛ける。

 計画を監督するモスクワ市の道路建設局は、AFPの取材申し込みを拒否した。活動家らは、建設予定地の再評価と公聴会が実施されるまで建設を保留にするよう求めている。

 環境団体グリーンピース・ロシア(Greenpeace Russia)は、建設工事で土壌が撹拌(かくはん)されることによって生じる放射能レベルは「予想不可能」で、放射性のちりは「かなりの距離まで拡散する」だろうと警告している。同団体は道路建設計画に反対する訴訟を起こした。審理は4月に行われる予定だ。(c)AFP/Maria ANTONOVA