【3月31日 AFP】新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、フェイスブック(Facebook)では蒸気を吸引すれば新型コロナウイルスを「殺す」ことができると説明する動画が240万回を超える視聴回数を集めている。しかし、蒸気吸引は感染症の治療や治癒につながらないどころか、健康を害する可能性すらあると専門家は指摘している。

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 この動画は、音響技術者兼ソングライターと名乗る男性が自身のフェイスブックページに投稿したもので、「新型コロナウイルスの治療法」として、海塩とかんきつ類の皮を加えた水を鍋で沸かし、15〜20分ほど湯気を吸引することを推奨している。

 さらに、男性はできるだけ多くの人を助けたいと述べ、「この動画を拡散してほしい」と訴えている。

 動画は多くの人を感化し、この方法で感染症を治癒できると信じ込ませている。オレンジの皮、タマネギ、ニンニク、ヨウ素添加塩を入れた鍋から立ち上る蒸気を女性が吸引する様子を捉えた別の動画は、数千回視聴されている。

 しかし、蒸気吸引は新型コロナウイルス感染症を治癒したりはしない。

 テキサスA&M大学(Texas A&M University)でプライマリーケア(初期治療)と公衆衛生を専門とするジェイソン・マクナイト(Jason McKnight)医師は、「現時点でウイルスを『殺す』唯一の方法は抗菌性の洗浄液を使用することだが、決してこれを吸引したり、体内に取り込んだりしてはならない」と警告している。

 マクナイト氏は「一般的に蒸気の吸引はせきや鼻づまり、胸の詰まりなど、呼吸器の症状を緩和するとみられているかもしれない。しかし、これは単に症状緩和にすぎず、ウイルス性感染症の治療法ではない」と指摘。蒸気で目、顔、気道などにやけどを負う可能性のほか、深刻な合併症を引き起こす恐れすらあるという。

 テキサスA&M大学テクサーカナ(Texas A&M University-Texarkana)の生物学部長でコロナウイルスの専門家、ベンジャミン・ニューマン(Benjamin Neuman)氏もこの見解に同意している。

「肺はデリケートで、蒸気はとても熱い。良い組み合わせではない。熱い蒸気は肺にダメージを与えるし、そういった考えはとてもひどいアドバイスだ」

 なお、新型コロナウイルスに関する勧告を掲載している世界保健機関(WHO)のウェブサイトにも、感染防止方法や感染した場合の対策を掲載した米疾病対策センター(CDC)のサイトにも、蒸気吸引は一切出てこない。(c)AFP/W.G. Dunlop