【3月31日 AFP】2020年東京五輪までの日にちを数えるカウントダウンの看板に、「中止だ 中止」という落書き。新型コロナウイルスの流行で東京五輪が1年延期になったことを受けて、ネット上で「予言ではないか」と話題になっている漫画「AKIRA」の1シーンだ。

 大友克洋(Katsuhiro Otomo)氏の作品「AKIRA」は1982年から90年にかけてコミック誌に連載。1988年にはアニメ化され、世界的なSF作品としてヒットした。

 舞台は2019年の「ネオ東京」。1982年に発生し、第3次世界大戦(World War III)の引き金となった謎の大爆発で壊滅した東京が、復興を遂げたという設定だ。

 ストーリーの核となる少年アキラは極秘の軍事プログラムで超能力を獲得するが、その力があまりに強大なため体を分解される。アキラの内臓が入った鉄の箱は、五輪スタジアム建設現場の地中深くに埋められており、後にアキラの超能力を受け継ぐこととなる鉄雄という少年に発見される。

 「『AKIRA』の世界は一言でいえば『サイバーパンク』だ。テクノロジーは発達しているが、富裕層と虐げられた人々の間に大きな格差がある未来のハイテクな世界だ」というのは、日本の漫画やアニメに詳しい専門家マシュー・ピノン(Matthieu Pinon)氏だ。

 2020年東京五輪はストーリーの中心に据えられているわけではないが、偶然にしては異様なほどの現実との近似性をもってたびたび登場する。日本のポップカルチャーを専門とする明治大学(Meiji University)の森川嘉一郎(Kaichiro Morikawa)准教授いわく、物語は五輪の中止または延期が避けられない事態へと展開していく。

 新国立競技場のあちらこちらからクレーンが突き出ていた建設現場の様子は、「AKIRA」ファンに漫画の一場面をありありと思い出させるものだった。

■並外れた現実感

 日本政府は東京五輪について、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故から立ち直った姿を示す「復興五輪」と位置づけている。

 漫画研究家のパトリック・ガウマー(Patrick Gaumer)氏によると「AKIRA」の中の東京五輪もまた、1982年の大爆発と壊滅的被害から復興した証しとして描かれている。作中の復興の象徴である五輪スタジアムは、その爆心地の近くに建てられている。

 現実とのもう一つの一致は、作中に登場する新聞の「世界保健機関(WHO)が伝染病対策を非難」という見出しだ。だがピノン氏は「これには雰囲気を出すという以上の意味合いはない」と述べる。

 結局、「AKIRA」は未来を予言していたのだろうか? 森川氏は予言というよりも、近い過去(戦後の日本)を再解釈した結果が、架空の近未来に反映されたのだと捉えている。戦後復興の1964年の前回東京五輪、1968年の大学闘争、死に物狂いの東京再開発……。

「AKIRA」が2020年東京五輪に触れていたことについて森川氏は、言えることはこうした一致が、すでに傑作といわれている作品の観賞体験に並外れた現実感を与えるだろうということだと述べた。(c)AFP/Etienne BALMER