【3月29日 CNS】25日午前6時、中国・湖北省(Hubai)武漢市(Wuhan)の空がやや白んでくるころ、市バスの運転手、王愛国(Wang Aiguo)さん(55)は漢口駅前のバスセンターにやってきた。

 体温測定、車両消毒、窓の開放、安全検査を済ませる。午前7時30分、王さんは市バス10号線の運転席に入り、エンジンをスタートさせた。これまでと違うのは、1人の安全員が乗車したことだ。同僚の楊建兵(Yang Jianbing)さんは赤い腕章を着け、赤外線体温測定器を持って同行する。楊さんの仕事は、乗客の体温を測定し、車上に張ってあるQRコードをスキャンし、実名登録を行うように促すことだ。

 この日、武漢市の117本の市バスが運行を再開した。1月23日に武漢市が新型コロナウイルスの感染拡大に対応し「内部に対しては拡散を防ぎ、外部からの流入を防ぐ」ため、公共交通を停止して以来、初めての正式運行だ

「バスを運転して30年。こんなに長い休暇を取ったことはなかった」と王さん。漢口駅を出発してから終点の武昌駅まで、全行程15キロ、45分あまりの路線だ。途中には12の停留所がある。武漢長江大橋を経由して『黄鶴楼』『古琴台』『閲馬場』などの停留所を通る。「この路線はもう10年余り走っている。停留所の名前は全部暗記しているし、どこに赤信号があり、どこの路面がでこぼこしているか目を閉じていてもわかる」

 車が「青年路范湖」の停留所に止まると、1人の女性がスマホを手に車に乗らずに撮影だけをしている。笑いながら「ごめんなさい、私は乗らないの。写真だけ撮らせてね。記念のために」と言う。この時間帯は、もともとは朝のラッシュアワーで、乗降客が最も集中する時間帯だが、終点に到着するまで客は乗ってこない。

 帰りの復路の「閲馬場」停留所で、韓桂閣(Han Guige)さん(50)が乗って来て、このバスの1人目の乗客となった。楊さんの助けを借り、実名登録を行った。椅子に座ると目は真っ赤になっている。「本当に大変だったわ」と韓さんは話す。韓さんは漢口のドラッグストアに勤務しており、2月から1日おきに自転車で武昌にある自宅から1時間半かけて通勤していたという。

「出発する前に背中にタオルを入れておくの。目的地に着くころにはもうびっしょり」と韓さん。武昌から漢口までの間には長江大橋があり、上りの区間になると、自転車からおりて押すしかない。体があちこち痛んでしょうがなかった」と話す。「でもこれからは大丈夫。バスが動き出したおかげで通勤は楽になるわ」

 王さんと楊さんと共に出発点の漢口駅前に戻ってきた頃には、路上を走る車が徐々に増え、見慣れた都市の風景が戻って来たようだった。(c)CNS/JCM/AFPBB News