【3月25日 AFP】新型コロナウイルスの世界的な大流行により、1年程度の延期が決まった2020年東京五輪だが、これにより関係各所は数年間にわたる準備をいったん白紙に戻し、費用の面でも影響の大きい複雑な調整作業を求められることになった。

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ(Thomas Bach)会長は先日、「五輪の延期は、次の週末のサッカーの試合を動かすようにはいかない」と話したが、ここでは延期に伴う課題をごく一部だが取り上げる。

■大会日程

 五輪専門サイトのインサイド・ザ・ゲームズ(Inside the Games)は、五輪は「4年のサイクルで回っている。目が覚めたときに太陽が全く違う場所にあったら、とんでもないことになる」と述べている。

 新しい日程が具体的にいつになるかは分からないが、すでに過密状態の2021年のスポーツカレンダーに五輪が押し込まれれば、選手や関係者、放送局は悪夢のような計画の見直しを強いられる。

 それでも、障害の一つはすでになくなっている。ワールドアスレティックス(World Athletics、世界陸連)は来年夏に第18回世界陸上オレゴン大会(World Athletics Championships Oregon 21)を予定しているが、五輪が延期になればそちらを優先して日程を移す意向を示している。

 他には、7月16日から8月1日の日程で第20回世界水泳選手権(20th World Aquatics Championships)が日本で開催される予定で、サッカーの欧州選手権(UEFA Euro 2020)も来年夏に延期となっている。

■会場

 東京五輪の舞台となる43会場の中身は、仮設会場に専用施設、五輪用に改修された会場などさまざまだが、延期はどのタイプにとっても難しい問題になる。IOCも施設の手配は特に課題だと強調し、「五輪に欠かせない重要な施設の多くが、延期した場合はもう使えない可能性がある」と話している。

 例えば、大会の目玉の一つである6万8000人収容の「新」国立競技場(Japan National Stadium)では、五輪後に「文化イベントやスポーツ大会」が行われる予定だが、延期後の五輪の日程とかぶればスケジュールを動かさざるを得ない。

 問題は競技施設に限らず、主催者は、海外からも多くの報道陣が詰めかける五輪用のメディアセンターとして、東京ビッグサイト(Tokyo Big Sight)の広大な敷地を長期間にわたって押さえていた。東京ビッグサイトはアジア有数の大規模会議向けの国際展示場で、予約は何か月も前から埋まっている。今から予約できる枠を見つけるにしろ、他のイベントに日程変更を要請するにしろ、調整は簡単ではない。

■選手村の問題

 他にも特に大きなクエスチョンマークが付くのが選手村の扱いだ。選手村は東京の街並みやレインボーブリッジを一望できる晴海の一等地に建設され、14~18階建ての施設21棟は、合計で五輪選手1万8000人、パラリンピック選手8000人を収容する能力がある。

 そして予定では、選手村は五輪後に改装した上で、高級物件「Harumi Flag」として分譲や賃貸される予定だった。マンションの公式サイトによれば、最終的に4145戸が売りに出される予定で、2019年にまず940戸の内覧と販売を行った結果、大半に買い手が付いたと国内メディアは報じている。

 しかし五輪が延期になったため、改装作業も後ろにずれ込むことになり、購入者にとっては全く先が読めない状況が生じた。場合によっては、契約の不可抗力条項が適用されるおそれもある。

■ホテル

 延期に伴う課題は「非常に多い」と話すIOCは、特に「ホテルの予約がすでに無数に行われている状況は、対応が極めて難しい」と強調している。

 実際、新型ウイルスの感染拡大前に、東京五輪の懸念材料の一つとして挙がっていたのが、ホテル不足の可能性だった。以前は停泊するクルーズ船を臨時の宿泊施設にする案もあったが、クルーズ船で感染が相次いだ現在では考えられない選択肢となった。

 東京近郊のホテルには、ずっと前から五輪に向けた大口の予約が入っており、多くの人は前金で宿泊代を支払っているが、中には返金不可のケースもある。新たな日程に合わせて急いで予約を取り直さなくてはいけない問題もある。

 五輪の延期で、ホテル業界も先行きが全く見通せない状況に置かれる。新型ウイルスで観光客の激減に直面している業界にとっては、頭痛の種がさらに増える形だ。(c)AFP/Richard CARTER