【3月24日 AFP】新型コロナウイルスを繰り返し「中国ウイルス」と呼ぶドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の言葉遣いには、一部のアジア系米国人にとって歴史上、暗い前例がある。

 アジア系米国人やその擁護団体などは、「中国ウイルス」といった言い方は、異質で不潔なアジア人社会といった数世紀にわたる偏見を助長し、一つの民族に属する人々が病気の拡散の責任を負うべきという誤った認識を与え、時に暴力を伴うアジア人への反発をあおっていると批判する。

 ニューヨークの地下鉄では先月、マスクを着けたアジア系女性を男が追いかけ、「病気」呼ばわりをして殴りかかる事件が起きた。

 そうした中で今月19日、アジア系米国人が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に関連した差別犯罪の被害を報告するためのサイトが、複数の公民権運動グループによって開設された。サイト立ち上げから24時間で、36件の報告が寄せられたという。

 米ロサンゼルスのマイノリティー住民組織の連合体、アジア太平洋政策立案評議会(Asian Pacific Policy and Planning Council)のマンジュサ・クルカルニ(Manjusha Kulkarni)事務局長によると、市内の中学校ではアジア系の生徒がクラスメートに新型コロナウイルスに感染していると責められ、中国へ「帰れ」と言われながら頭を20回も殴られるいじめも発生した。

 こうした暴力は、1882年に米国が中国人の移住を全面禁止した「黄禍(Yellow Peril)」論にさかのぼる大きな歴史の一部だとクルカルニ氏はいう。「状況は絶対に悪化すると思う。それは(トランプ)大統領が移民社会への憎悪を武器として利用しようと、執拗(しつよう)に試みているせいでもある」「彼は公的権力を持っている。それは強大な力で、人々は彼に耳を貸す」

 カリフォルニア大学ヘイスティングス法科大学院(University of California Hastings College of the Law)教授で、「Yellow: Race in America Beyond Black and White(黄色人種:黒人と白人の向こうにいる米国の人種)」と題した著書のあるフランク・H・ウー(Frank H. Wu)氏は、昔からさまざまな病気に地名が使われてきたという。「そうした言葉が問題となるのは、途方も無いストレスにさらされているときだからだ」

 だが、中国系飲食店に対する現代の見方にもあるように、昔からアジア系米国人といえば不潔という連想があるとウー氏はいう。対照的に「清潔さは常に倫理的な手本や善人、社会の良き一員であることの象徴とされる」「これは実際、病気やその由来だけにまつわる問題ではない。もっとずっと象徴的な問題だ」

■病気をめぐる中国系への攻撃

 アジア系米国人と病気を結びつけた顕著な例は、1900年に腺ペストが流行し、サンフランシスコとハワイ・ホノルル(Honolulu)の両方で起きた当局によるチャイナタウンの封鎖がある。

 カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)法科大学院の講師、チャールズ・マクレーン(Charles McClain)氏は、差別と闘ってきた中国系米国人に関する著書を記している。同氏によると、当時の医療専門家らはアジア人は病気に感染しやすいと結論付けていたという。

 当時サンフランシスコのチャイナタウンは「非常に人口密度の高い地域だった」とマクレーン氏は語る。「市内の他の地域よりも罹患(りかん)率が高かったとは思わないが、見解が形成されていく上で大きな役割を果たした、そうした類いの固定観念があった」。最終的には、サンフランシスコ当局は中国系米国人が病気に感染しやすいことを証明する必要があったとの訴えを裁判所が認め、チャイナタウンへの強制検疫は終了された。 (c)AFP/Shaun TANDON