【3月23日 AFP】メアリー・グレイス・アベス(Mary Grace Aves)さん(23)は、新型コロナウイルス感染症の大流行におびえている。だが、家族を守る最高の武器である「隔離」と「衛生」は、アベスさんが住むフィリピンの首都マニラのスラム街では手が届かないぜいたく品だ。

 同じような危険が、アジア各国の巨大スラム街に押し寄せている。スラム街で清潔を保つことはほぼ不可能で、人々は生き延びるために毎日外出しなければならない状況だ。

 マニラのトンド(Tondo)地区にあるアベスさんの自宅は洋服ダンスほどの大きさで、「道で誰かに出くわしたら、どうしても触れてしまう」と語った。

 アジアでは新型コロナウイルス拡大防止のための対策が強化されており、マニラも封鎖されている。

 新型コロナウイルスへの感染はせきやくしゃみの飛沫(ひまつ)を通じて起きることが多く、世界の保健当局は最も効果的な予防策は外出を控え、手を清潔に保つことだとしている。

「しかし、もしそのどちらもできないとしたら?」と英開発学研究所(IDS)のアニー・ウィルキンソン(Annie Wilkinson)氏は意見記事で書いている。「都市部の貧困層への影響は、他の地域に比べかなり大きくなるという現実的な危険がある」

 世界銀行(World Bank)の2017年の調査によると、東アジア・太平洋地域では2億5000万人がスラム街に暮らしており、その多くは中国、インドネシア、フィリピンにいるという。

 スラム街では料理、洗濯、個人の衛生管理、娯楽が、人がたくさんいる共有スペースで行われる。

 アベスさんの住居には、マスクも消毒液も洗面所もない。トイレはバケツで、中身はエステロ・デ・ビータ(Estero de Vita)川の黒く濁った水に直接捨てられる。

 スラム街は感染症が拡大するのに必要な条件がすべてそろっているといえる。