■Kポップの先駆者

 ヤンさんは何度か人気歌番組に出演したが、今のKポップ界ではよくあるダンスをしただけで場違いだとされ、「男らしくない」「外国人」と批判された。

「私は韓国とは相いれないのだと感じた」「観客はとてもよそよそしく感じた」とヤンさんは話す。観客の一人に握手をするふりをして乱暴にステージから引きずり下され、「殴ってやる」と脅されたこともあったと当時を振り返った。

 ヤンさんはすぐに忘れ去られ、2015年に米国へ移住するまで英語教師として働いた。妻と幼い息子を養いながら自暴自棄になったこともあると打ち明ける。最終的に米フロリダ州で1日14時間勤務のウエーターの仕事を見つけた。

 米ハーバード大学(Harvard University)で映画とメディアの研究をするクン・ユンペ(Keung Yoon Bae)氏は、ヤンさんが登場したころ「韓国ポップは保守的な社会環境と共存しなければならなかった」と説明する。

 ヤンさんが音楽活動をやめた数年後、現代のKポップへつながる役割を果たしたとされるソテジワアイドゥル(Seo Taeji and Boys)が人気を博した。しかしヤンさんは「自分が時代の先を行っていたとは思わない」と語る。

■過去へのノスタルジー

 ヤンさんが大ブレイクしたのは、初めてステージに立ってから30年後のことだった。

 韓国のテレビ局が2018年、過去の歌番組をユーチューブで配信し始めたことがきっかけで、ヤンさんがデビューした頃にはまだ生まれていなかった人も多いミレニアル世代の目に留まった。主流メディアでヤンさんのことが取り上げられるようになり、テレビ番組への復活を果たした。

 ヤンさんのカムバックには、韓国で世代間対立が激化していることが背景にあるという。

 50代、60代の国民の多くは急速な経済成長の恩恵を受けてきた。しかし20代、30代の国民の多くは、過酷な雇用競争と住宅価格の高騰に直面しており、恋愛、結婚、出産を放棄しなければならない「三放世代」と自称している。

 ビルボード(Billboard)のKポップ記者タマル・ハーマン(Tamar Herman)氏は「ファンは過去にノスタルジーを感じている」と指摘する。ヤンさんのような「隠された宝石」を見つけ出すことで、「現在を変えることが難しいこの時代に、過去は変えることができるという感覚を人々に与えている」と述べた。(c)AFP/Claire LEE