【3月18日 AFP】米東部アパラチア山脈(Appalachian Mountains)の近く、ウェストバージニア州にある踏み固められた小道の先に、森に囲まれたキャンプがある。首都ワシントンから車で約2時間のこの場所は、サバイバリスト(生存主義者、戦争や大災害を生き抜く準備をしている人)たちが、新型コロナウイルスが到来するずっと前から文明の崩壊に備えてつくっていた施設だ。

 ファミリーサイズの缶詰でいっぱいになった箱に、25年間保存可能なフリーズドライ食品の袋、米、小麦粉…サバイバリストたちは、新型ウイルス流行を受けた買い占めが全米各地で起きる前から備蓄に励んできた。食料は地下1メートルに掘られた鉄筋コンクリート製の掩蔽壕(えんぺいごう)に整然と積み上げられている。

 現在入手困難となっているトイレットペーパーとマスクも十分にある。案内をしてくれたスティーブ・ルネ(Steve Rene)氏は、「今なら相当な値段になりますよ!」と冗談を言った。ここ「フォーティテュード・ランチ(Fortitude Ranch、フォーティテュードは『不屈の精神』といった意味)」は、広さ40ヘクタール。ルネ氏はまるでキャンプ場であるかのようにこの場所を管理している。実際、キャンプ場のような所だ。

 フォーティテュード・ランチのモットーは「最悪に備えよ…今を楽しめ」。メンバーは毎年最長で2週間、ハイキングや、いみじくもロスト川(Lost River、「忘れられた川」の意味)と名付けられた川でのマス釣りなどで自然に親しみ、この田舎の避難所での暮らしを大いに楽しむ。

 愛想が良く頭脳明晰(めいせき)なルネ氏はここの管理人になった当初から、世の終わりへの備えを常に怠らないことから「プレッパー(準備する人)」とも呼ばれるサバイバリストを取り巻く偏見を、払拭(ふっしょく)しようとしてきた。

「世界が明日終わると思っている頭のおかしな人間の集まりではありません」とルネ氏は言う。「わたしたちは軍事的ではなく、民兵などとも無関係です」。もっともルネ氏自身は1991年に、湾岸戦争(Gulf War)の「砂漠の嵐作戦(Operation Desert Storm)」に参加した経験がある。ルネ氏が着ている完璧にアイロンをかけられた茶色のシャツが過去の兵役を物語っている。

 敷地の四隅に設けられた見張り台や、装甲車も止めることができる大口径ライフルが置かれた居間が、メンバー志望者にここはお遊びでやっているのではないと分からせている。