【5月3日 AFP】十数人の子どもたちは恥ずかしそうに観客の方を見つめていたが、いったん歌い始めると大胆になり、フィリピンの麻薬戦争で亡くなった父親たちへの思いを歌に注いだ。

 子どもたちの合唱は、国際的な批判が起こった麻薬戦争への抗議活動であると同時に、子どもたちが同じように銃殺されないよう守りたいと願うコミュニティーの重要な取り組みの一つでもある。

 合唱団に所属する子どもたちの家庭環境は経済的に厳しい状況に置かれており、ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領の弾圧政策により、特に大きな打撃を受けている。麻薬戦争によって一家の稼ぎ頭は殺され、子どもたちはその代わりを務めるために学校を中退せざるを得ない状況となった。

 合唱団などの活動を支援する司祭のダニーロ・ピラリオ(Danilo Pilario)氏は、AFPに対し「この悪循環から抜け出せれば、子どもたちは違う人生を送ることができる」と語った。

 合唱団に参加する約25人の子どもの多くは、マニラ郊外にある人口13万人のパヤタス(Payatas)出身で、全員がドゥテルテ政権の麻薬取り締まりにより兄弟か父親を失っている。

 パヤタスは数十年前にごみ捨て場の周りにできた貧困地区で、ごみ拾いが主な地元産業となっている。フィリピンの他の都市と同様、ドゥテルテ氏が2016年半ばに弾圧を開始すると、パヤタスでも警察や正体不明の「殺し屋」による殺害が急増した。

 聖歌隊のメンバーであるジョーンさん(12)は2016年12月6日、突然家に押し入ってきた警察に父親を殺された。麻薬取引に関与したと警察は主張している。家のソファには銃弾でできた穴が残っている。

「父はその日、私の誕生日を祝うために家に帰って来た」とジョーンさんは父親の墓の前で涙をこらえながらAFPに語った。