【3月19日 AFP】仏首都パリ郊外にあるベルサイユ宮殿(Palace of Versailles)内にあるオペラハウス「ロイヤル・オペラ(Royal Opera)」で、指揮者のフランソワグザヴィエ・ロト(Francois-Xavier Roth)さんがタクトを手に指揮台に登った。ルートウィヒ・ベートーベン(Ludwig Van Beethoven)の交響曲第5番を演奏し終えると、振り向いて客席に頭を下げる。だが、そこには誰もいない。会場にいるのはオーケストラの団員だけだ。

 世界各地で新型コロナウイルスの感染が拡大し、パンデミック(世界的な大流行)対策としてコンサートホールが閉鎖に追い込まれている中、生演奏をするにはこうした対策がどうしても必要になる。それでも、指揮者のロトさんやオーケストラ「レ・シエクル(Les Siecles)」の団員たちにとって、この美しいオペラハウスで14日に行われた演奏会をやらないという選択肢はなかった。たとえ、無観客でカメラだけが回っているとしてもだ。

 こうした形式で演奏会を開くのは彼らだけはない。世界有数のオーケストラや歌劇場の多くが、試練のさなかに音楽ファンへ向けて演奏を無料でストリーミング配信している。

 音楽を奏でることは、新型ウイルスの感染と、それに伴うパニックが広がり始めたときに、人々がまず起こした本能的な行動だった。イタリア全土で移動を制限する封鎖措置が続く中、市民は自宅のバルコニーから歌い、慰め合った。

 こうした措置が長引く可能性を受け、ベルサイユのオペラハウスをはじめとする歌劇場はストリーミング配信を開始しつつある。暇を持て余す音楽家らが、ファンとの接点を保ちながら、新たなファンを獲得するための創造的な方法を見いだしているのだ。 

 ロシア系ドイツ人ピアニストのイゴール・レビット(Igor Levit)さんは、「No Fear(大丈夫)」というメッセージの下、ツイッター(Twitter)のフォロワー6万人に向けて毎日のようにリサイタルを配信しており、フランスのバイオリニスト、ルノー・カピュソン(Renaud Capucon)さんも、「NomadPlay」というアプリを使用してアントニン・ドボルザーク(Antonin Dvorak)の曲を自ら弾く動画をツイートしている。このアプリでは、バーチャル・オーケストラとの共演も可能になる。

 米ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(Metropolitan Opera)は、今月16日からウェブサイトでオペラの無料ストリーミング配信を開始した。過去14年間に同歌劇場で上演されてきたさまざまな傑作を一夜ごとに提供している。

 オーストリア・ウィーンそしてドイツ・ミュンヘン(Munich)の歌劇場も同様の試みを行っている。スウェーデン王立オペラ座(Royal Swedish Opera)が取り上げたのは、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)の「ワルキューレ(The Valkyrie)」。約5時間にわたる配信だ。

 また、世界一有名なオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berlin Philharmonic)はどこよりも早く、通常は有料のストリーミング配信サービス「デジタル・コンサートホール(Digital Concert Hall)」を無料開放した。

 他方で、仏パリのコンサートホール「フィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)」は、過去の全上演作品をアプリで視聴可能にし、隣接する音楽博物館のバーチャルツアーを提供。「あなたが音楽を聴きに来られないなら、音楽があなたの元にやってくる」というメッセージを打ち出している。