【3月20日 AFP】最初は3本の指を、次に片耳の聴覚を、そして最後に両脚と両目を失った──シリア内戦から逃れようとするたびに、イブラヒム・アリ(Ibrahim al-Ali)さん(33)の体は傷ついた。

 元鍛冶職人で4人の子の父親のアリさんは、トルコ国境に近い国内避難民キャンプで、10年目に突入した戦闘で負った傷を見せてくれた。目を閉じたまま、胸の下の長い傷、腕の切り傷、頭皮、首、腰の変色した傷を指でたどる。

 薄いマットレスの端に寄り掛かり、膝から下を切断された片方の脚をそっと動かして運動する。「もう子どもたちを抱き上げることはできない」。茶色のしま模様のセーターから伸びる細い手を、膝の上に置いて休ませる。「働けないし、動くことさえできない」

 昨年12月以降、ロシアの支援を受けるシリア政権軍は、シリア北西部で攻撃を続けている。そのためにアリさん一家ら100万人近い人々が避難を余儀なくされた。

■紛争の地図

 アリさんの体はシリア北西部での空爆をくぐり抜けた、恐ろしくも奇跡の旅を表す地図のようだ。

 最初にけがをしたのは2013年、戦闘が激しくなったために生まれ故郷のハマ(Hama)県シャイザール(Shaizar)村を離れたときだった。ラタムネー(Latamneh)の街の近くで政権軍のたる爆弾にやられ、手首と腕に金属片が突き刺さった。

 その年のうちに一家はさらに北を目指し、イドリブ(Idlib)県のマーラトフルマ(Maaret Hurma)へ逃れた。そこでも自宅が政権軍の砲撃を受け、アリさんは左手の3本の指を失った。

 2014年の初めに同じイドリブ県内のカファルサジナ(Kafr Sajna)へ移ると空爆に遭い、爆弾の破片が胸に突き刺さり肋骨(ろっこつ)が折れた。

 2016年には同県南部ハンシャイフン(Khan Sheikhun)郊外の農地へ引っ越した。「ほぼ1年間、けがをせずに生き延びた年だった」。しかし、最後の月にまたも空爆で頭をけがし、右側の耳が聞こえなくなった。

 それでもアリさんは、家族を連れて北部シェイクムスタファ(Sheikh Mustafa)へ戻った。そこでは無事に12か月を過ごすことができた。