【3月14日 AFP】フランス・パリの裁判所は11日、シリコン製のマスクなどで仏国防相に成り済まし、裕福層や著名人、宗教家から大金をだまし取った詐欺の主犯格として、ユダヤ系フランス人のジルベール・シクリ(Gilbert Chikli)被告(54)とアントニー・ラザレビチ(Anthony Lasarevitsch)被告(35)に禁錮7~11年と高額の罰金刑を言い渡した。

 2人は、ジャンイブ・ルドリアン(Jean-Yves Le Drian)外相が国防相を務めていた2015~16年に同氏を装い、「仏政府の秘密活動のための寄付金」を募っていると政治家や経営者らに持ち掛けて、被害者3人から総額約5500万ユーロ(約65億円)をだまし取ったとされる。

 シクリ被告に禁錮11年と罰金200万ユーロ(約2億4000万円)が言い渡されると、傍聴席から「スキャンダルだ」「恥を知れ」などの声が上がった。一方、ラザレビチ被告には禁錮7年と罰金100万ユーロ(約1億2000万円)が言い渡された。2人はいずれも罪状を否認していた。

 この事件では他に27~59歳の被告5人が刑事訴追されており、1人が11日に釈放され、残る4人は執行猶予付きの禁錮15月~5年の判決を受けた。

 犯行の手口は、ルドリアン氏の顔をかたどったシリコン製のマスクをかぶった人物が、濃色のスーツを着て執務室らしき机の前に座り、被害者とビデオ会議を行うといったものだった。偽のルドリアン氏は、電話やビデオ会議を通じて150人以上の標的に接触。うち3人をだますことに成功した。

 検察によると、被害者の一人はイスラム教シーア派(Shiite)の分派イスマイル派(Ismaili Muslims)のイマーム(指導者)、アガ・カーン(Aga Khan)師だという。2016年にルドリアン氏の偽者にだまされ、総額2000万ユーロ(約24億円)を5回にわたってポーランドと中国に送金。うち3回分の送金は凍結されたが、770万ユーロ(約9億円)はどこかへ消えてしまった。

 その数か月後、トルコの大物実業家イナン・キラジ(Inan Kirac)氏も被害に遭い、「シリアで人質になっているジャーナリスト2人を解放するための身代金」として、4700万ドル(約50億円)超を支払った。

 シクリ被告は2015年にも、05~06年に企業経営者に成り済ます同様の手口で詐欺行為をはたらいたとして起訴され、被告不在のまま行われた裁判で禁錮7年の判決を受けていた。逃亡を続けたシクリ被告だったが、17年にウクライナでラザレビチ被告と共に逮捕された。

 警察が押収した2人の携帯電話からは、モナコのアルベール2世公(Prince Albert II)のシリコンマスクの写真が見つかった。このことから、2人はアルベール2世公に成り済ます新たな詐欺計画を練っていたとみられている。(c)AFP