【3月5日 AFP】中絶手術を施していたジョージ・ティラー(George Tiller)医師は2009年、米カンザス州の教会で反中絶過激派によって射殺された。ティラー氏と共に7年間働いていたジュリー・バークハート(Julie Burkhart)氏(53)はそれ以来、ティラー氏の後を継いでいる。「私は一度も後悔していない。なぜならやるべきことをやったからだ」とバークハート氏は語る。

 米中西部や南部では社会に宗教右派が深く根付いており、医師や看護師、診療所の経営者らは日々苦労して中絶手術を行っている。

 米最高裁で4日、中絶規制をめぐる審理が開始した。

 中絶手術を施している複数の医師は影響を恐れ、AFPの取材を断った。だが、バークハート氏は違った。

 もちろんバークハート氏も、ティラー氏殺害後は自分の身だけではなく、家族や職員の身の安全も常に考えている。

 ティラー氏は後期中絶を行う数少ない産婦人科医の一人だった。1993年にも殺されかけたことがあり、その後は防弾ベストを着用していた。だが、まだ生まれていない子どもを守りたいと主張する男に頭部を撃たれて亡くなった。

 ティラー氏の死は、残酷な現実を映し出していた。

 ティラー氏殺害に対しては、中絶反対派からも厳しい非難の声が上がったが、襲撃は続いた。2015年には、コロラド州コロラドスプリングズ(Colorado Springs)にある医療施設で新たに3人が殺された。1973年に米国で中絶が合法化されて以来、中絶反対派によって殺害された人の数は11人に上っている。

 全米妊娠中絶連合(NAF)によるとさらに過去数十年で、26件の殺人未遂、42件の爆弾攻撃があった他、複数の医療施設で300回以上の不法侵入が発生している。

 夫を失ったティラー氏の妻は、カンザス州ウィチタ(Wichita)にあった診療所を売却した。「責めることはできない」と、2001年から09年までティラー氏の広報担当でありロビー活動を行っていたバークハート氏は言う。「しかし、そのような決断がされたすぐ後に、私たちは診療所が再開されるべきだと思った」