【3月6日 AFP】新型コロナウイルスのアウトブレイクにより、感染症の拡大に対抗するための研究が世界的に行われていなかったという現状が浮き彫りとなっている。専門家らは3日、世界の保健当局が重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)といった過去に感染症が流行した際の教訓を生かせなかったと指摘した。

 2002~03年に流行したSARSでは774人が命を落とし、その後に発生したMERSでは850人以上が死亡している。MERSの流行は主に中東に限られていたが、それでもこれだけの死者が出た。

 SARSやMERSの流行を受けて治療計画の策定やワクチン開発が進められたが、それらが持続的で組織的なものに発展することはなかった。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大でそれが明らかになったと科学者らは指摘する。

「こうしたアウトブレイクによって研究や投資への注目は高まるが、ピークを過ぎると他に優先順位が置かれるということはしばしば起こる」と、米エール大学(Yale University)の健康医療政策管理学部で助教を務めるジェイソン・シュワルツ(Jason Schwartz)氏は語る。

「SARSとMERSの流行では、コロナウイルスによって世界の健康医療に脅威がもたらされること、そして予防および治療に向けてこれらウイルスへの理解を深めるためには持続的な投資が必要であるということが示された」

 フランス国立科学研究センター(CNRS)のウイルス学者ブルーノ・カナール(Bruno Canard)氏によると、SARSの流行後、欧州連合(EU)加盟国は共同研究プログラムを実施していたが、2008年の世界金融危機により資金が枯渇し、プログラムが終了してしまったという。

 こうした流れについてベルギーを拠点とする国際抗ウイルス薬研究学会(ISAR)のヨハン・ネイツ(Johan Neyts)会長は、SARSの流行後、世界は感染症に備えるための機会を逃したと語る。SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスとは類似しているのだ。

 ネイツ氏はAFPの取材に対し、「私たちはSARSが流行した2003年から、コロナに有効な治療薬の開発に着手すべきだった。そうすれば今頃は、新型コロナウイルスに有効な治療薬の備蓄ができていたかもしれない」「私たちは機会を逃してしまった」と話した。

 人に感染するコロナウイルスは、これまでに7種類見つかっている。これらが遺伝学的に近縁種であることを考えると、共同研究によって全7種に有効となる広範な治療薬も生産可能だったとカナール氏も同様の意見だ。