【3月4日 AFP】敵陣に包囲されたシリア北西部の村タルトゥナ(Taltuna)の、オリーブの木が点々とするなだらかな丘から、シャムスディーン・ダラ(Shamseddeen Darra)さん(35)は薄暗い地下壕(ごう)に下りていく。彼と彼の家族は今、ここを家と呼んでいる。

 自宅があったイドリブ(Idlib)県に対するシリア政権軍の容赦ない攻撃を逃れたものの、行くあてはなかった。そして見つけたのはシリア内戦の初期、空爆から身を守るために村人たちが掘った地下壕だった。一家は荒れた内部を掃除し、移り住んだ。ダラさんと3人の兄弟、それぞれの妻たち、10人を超える子どもたちがこの狭い部屋で一緒に暮らしている。

■蛇にサソリ

 新しい住まいに敷かれたカーペットの上で、ダラさんの子どもたちは身を寄せ合っていた。辺りには、フムス(豆のペースト)や乾燥オレガノ入りオリーブオイルのボウルが乗ったトレーが置かれていた。

 太陽の光は階段から差し込むだけだ。これが、陰気な暗闇を追いやる唯一の光源だ。

 部屋の隅にはわずかな持ち物が積まれ、赤と濃紺の毛布がかけてあった。「湿気に困っている。子どもたちは具合が悪い」とダラさん。横にいた子どもの一人は泣き出した。「それに虫もいる」。ダラさんは黒い厚手のパーカを着込んでいる。

 ダラさん一家からそう遠くないところで、アブ・モハメド(Abu Mohammed)さん(40)も地下壕を避難生活の拠点にした。ここは、40人ほどが住む避難民キャンプとなっている。

「私たちが着いたときにはここは汚い洞窟で、動物のふんもあった」「村人たちからは蛇やサソリもいると注意されたが、他に選択肢はなかった」と言う。

 国連(UN)によると、シリアで昨年12月以降、新たに避難民となった約17万人は屋外や未完成の建物などに住んでいる。

 AFP特派員は、避難場所がないため仕方なく車の中で暮らしたり、学校やモスク、さらには廃虚となった刑務所で寝泊まりしたりしている家族をいくつも見てきた。