【2月23日 AFP】米体操連盟(USA Gymnastics)が、元チーム医師のラリー・ナサール(Larry Nassar)被告の性的虐待事件の被害者に対し、基準によって賠償額が異なる示談案を提示したと、22日に米スポーツ専門チャンネルESPNなど複数メディアが報じた。

 この案では、2016年リオデジャネイロ五輪で4個の金メダルを獲得し、世界体操競技選手権(FIG Artistic Gymnastics World Championships)で通算19個のタイトルを誇るシモーネ・バイルス(Simone Biles)ら66人には、最高額の125万ドル(約1億4000万円)が支払われる一方で、一部の被害者はわずか8万2550ドル(約920万円)しか受け取れないという。

 被害者の代理人は、示談金の合計額2億1500万ドル(約240億円)は不十分であるだけでなく、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)や連盟のスティーブ・ペニー(Steve Penny)元会長、元代表コーチのベラ・カローリ(Bela Karolyi)氏とマルタ・カローリ(Martha Karolyi)氏夫妻らに対する請求権を放棄することになると主張している。

 ナサール被告は現在、児童ポルノの罪で禁錮60年の刑に服しており、他にも複数の罪で有罪となり、事実上の終身刑を言い渡されている。

 この示談案では、五輪や世界選手権、米国代表のトレーニング、代表チーム関連の大会でナサール被告に虐待の被害を受けた女性には、それぞれ125万757ドル(約1億4000万円)が支払われる一方、連盟が認可した大会で被害を受けた非代表選手には50万8670ドル(約5700万円)、連盟が関係していない場所で被害を受けた女性には17万4401ドル(約2000万円)、代表訴訟の構成者には8万2550ドル(約920万円)しか支払われない。

 現在連盟を訴えている被害者のうち180人以上の代理人を務めるジョン・マンリー(John Manly)氏はESPNに対して「想像しうる中で最も不快で、ふらちで、下劣な子どもの見方だ」とし、この示談案は連盟とUSOPCが「道徳的に破綻している」ことを示していると非難している。

「彼らの案はナサールの多くの擁護者、すなわちスティーブ・ペニーやマルタ・カローリ、スコット・ブラックマン(Scott Blackmun)氏(米国オリンピック委員会<USOC>元最高経営責任者<CEO>)らを完全に罪から逃し、何も代償を払わせなくてよいようにするものだ」

 また、自身が率いる事務所が、ナサール被告の160人以上の被害者を代理するミック・グレウォル(Mick Grewal)氏は、今回の示談案は「不十分」で「話にならない」とESPNに話している。

 2018年12月に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した連盟は、選手らの承認期限は5月8日だとしている。拒否した場合は、選手たちは連盟の破産手続きが終了してから、7月に開幕する東京五輪前の解決を目指し、連盟を相手取って訴訟を起こすことができる。(c)AFP