【2月9日 AFP】中国・上海であえて外出する住民はめったにいないが、外に出れば見慣れぬ光景――超現実的な平穏と静寂に迎えられる。そんな状況が1週間超続いている。

 多数の死者を出している新型コロナウイルスの流行のために、中国のかなりの部分が活動停止に追い込まれた。だが、同国で最大かつ最も活気に満ちた都市・上海ほど激変した都市はおそらくほかにないだろう。

 交通渋滞と歩道の雑踏、職場に急ぐ会社員は消え去り、不気味なほど閑散とした道路とシャッターが下りたバーや商店が取って代わった。ごくまれに見かける歩行者といえば、いつも防護マスクを着けている。

 巨大都市を多数抱える中国でも最多の人口を誇る上海だが、定番の待ち合わせスポットは中性子爆弾でも落とされたかのようだ。

 中心部を流れる黄浦江(Huangpu River)を挟んで対岸に近未来的な金融街を臨む風光明媚(めいび)な外灘(バンド、Bund)エリアは平時なら、欧州風の歴史的建築物に見とれる人々であふれている。

 しかし、いつも黄浦江を行き交う大量の荷物を積んだ荷船の姿はなく、そびえ立つ超高層ビル群にもほとんど人けがない。

 この静寂を破るのは、時折流れてくる築93年になる上海税関(Shanghai Customs House、旧江海関)の屋上にある高さ90メートルの時計塔の鐘の音だけだ。

 上海はこれまでのところ、中国の都市で見られるような全面封鎖または一部封鎖を免れている。

 しかし住民たちは、大量のテキストメッセージやけたたましい行政無線を介して伝えられる不要不急の外出を避けるようにとの指示におおむね従っている。出歩く時はたいてい、どちらかの端に大きく寄って、対面から歩いて来る人々を避けている。

 中国政府は自宅で待機している人々に向けて、在宅運動のやり方や、肺炎に似た症状での死を考えることからくるストレスを避ける方法などに関する助言を絶え間なく流し続けている。

 政府が配布したあるチラシには、「人民を不幸にするマスコミ報道への接触を減らし、不安と悩みも減らそう」と明るく書かれている。

 しかし、多くの人にはこの上ない退屈がのしかかっている。

 政府がストレス軽減方法についてソーシャルメディアに投稿すると、あるユーザーが「とにかくはっきり言えるのは、家の中にいるのはもううんざりということ」とコメントした。

 新型コロナウイルス危機に陥った数日後、上海は晴天に恵まれ、同じところに閉じ込められて気が変になった大勢の市民が太陽に誘われて外に出た。すると政府はソーシャルメディアに、「太陽の下に立っても、殺菌にはならない」と投稿した。(c)AFP/Dan Martin