■感染症と外国人差別、政府が偏見を助長か

 病気の流行に伴い、外国人を保菌者と疑う傾向は昔からある。1900年代の米国で「腸チフスのメアリー(Typhoid Mary)」と呼ばれた女性で知られる腸チフスの流行が起き、パニックになった際にアイルランド系移民が標的とされた。最近ではハイチ地震の際に国連(UN)平和維持活動(PKO)に参加したネパール隊が、現地にコレラを持ち込んだとして非難された。

 オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)健康・バイオセキュリティー部門のトップ、ロブ・グレンフェル(Rob Grenfell)氏は「よくある現象だ」と言う。「人類史を見ると、病気の流行が発生すると、私たちはいつも一定の集団を非難し責任をかぶせようとする」

 同氏は1300年代、中世欧州にペストがまん延したときにも外国人や宗教集団が非難された例を挙げ、新型コロナウイルスも「発生したのは中国だが、実際のところ中国人を非難する理由はない」と指摘する。

 各国政府の反応が偏見を助長していると批判するのは、豪シドニー大学(University of Sydney)で衛生学の講師を務めるクレア・フッカー(Claire Hooker)氏だ。

 世界保健機関(WHO)では「海外渡航や貿易に無用に干渉する措置」を取らないようくぎを刺しているが、それでも多くの国に渡航禁止措置を保留させるには至っていない。例えば太平洋の小さな島国ミクロネシアでは、国民の中国本土全域への渡航を禁止した。

「渡航禁止令は主に人々の恐怖に対応するものだ」とフッカー氏。それが必要な場合もあるが「中国人と恐ろしいウイルスの関連付けを強化する効果」を及ぼすことが多いと指摘する。

 2002年に起きた、同じくコロナウイルスが原因とする重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時に行われたカナダ・トロントの調査では、公衆衛生上の懸念が去った後でもかなりの長期間、外国人嫌悪の影響が残ったことが分かっている。

「病気に関するニュースが徐々に減ってくれば、直接的な形の人種差別はやむだろう。しかし経済の回復にはかなりの時間がかかり、人々の不安感はしばらくの間消えないだろう」とフッカー氏は言う。

 中国系の商店や料理店に客足はすぐには戻らないだろうし、それどころか、危険だから麺類を食べてはいけないといったソーシャルメディア上のとっぴなデマに人々が耳を傾けさえするかもしれない。(c)AFP/Andrew BEATTY