【2月11日 AFP】インド北部から中国チベット自治区(Tibet Autonomous Region)にまたがる地域で暮らすチャンパ(Changpa)と呼ばれる人々は数世紀にわたり、絹のように柔らかい最高級の毛織物「パシュミナ」の原毛を産出するヤギを飼育してきた。だが今や気候変動が一因で、多くの人々が生活様式の再考を迫られている。

 標高5000メートルに位置し、チャンパの人々が半遊牧生活を送りながら暮らすチャンタン(Changtang)と呼ばれる地域の気候は、冬は寒さが、夏は乾燥が、より厳しくなっている。

 そうした気候の変化に他の要因も相まって、過酷な環境下の高原で暮らしていた多くの人々が伝統を捨て去り、他の収入源を探してインド・ラダック(Ladakh)地方の村々や都市に移住している。

 カシミヤの中でもさらに人気が高いパシュミナは、インド、ネパール、チベット、中央アジアでみられるヒマラヤヤギの品種から採れる細い毛を原料とする。特にチャンタン地方から産出するパシュミナは、品質にうるさい人々からも最高級とみなされている。

 ヤギたちは、暖かさと軽さに非常に優れた細い繊維を産出するために、チャンパの人々の故郷に固有の気候条件を必要とする。

 ソナム・ヤンゾム(Sonam Yangzom)さん(55)の顔からは、生まれて以来ずっとチャンタンで暮らし、厳しい気候にさらされてきたことがうかがえる。ヤンゾムさんはAFPに対し、「6~9月はテントの中でキャンプをして過ごすが、冬の間は寒過ぎるため、コルゾク(Korzok)村に移動する必要がある」と語った。その上、最近では「テントで暮らすには寒くなり過ぎている。キャンプ内に家を建てなければならなくなる」と説明した。

 また商店を営むイルファン・ゴル(Irfan Goruu)さん(31)は「天候が変わってきたために、パシュミナに不足が出ている」「ラダックの遊牧民がパシュミナを生産しなくなったら、誰もやらない…この産業も終わりを迎えてしまう」と話す。
 
 国際NGO「アクションエイド・インターナショナル(ActionAid International)」の活動家、ハージート・シン(Harjeet Singh)氏(43)は、インド北部は気候変動が猛威を振るう最前線に位置し、干ばつや洪水、サイクロンに見舞われていると指摘。「こうした影響が人々を移住へと駆り立てている。皆が家に住むようになり、生計の立て方も変わり、生活パターンも変化している」と語った。

「国際的なレベルでは現状、われわれは気候変動の経済的影響について話してばかりだが、文化や言語の喪失、大地や生物多様性の喪失といった、社会的・文化的な環境の影響にもまた目を向ける必要があることを、人々は徐々に認識しつつある」とシン氏は述べた。

 映像は2019年8、12月撮影。(c)AFP/Noemi CASSANELLI