【2月10日 AFP】ストイックな食生活と、スピリチュアルのグル(指導者)、そして家族とのハグの儀式。そうしたものを大事にしているスポーツ選手は多くない。しかし全豪オープンテニス(Australian Open Tennis Tournament 2020)の男子シングルスで8回目の優勝を成し遂げたノバク・ジョコビッチ(Novak Djokovic、セルビア)は、そうしたものを糧に、歴史に名を残す選手へと成長してきた。

 ジョコビッチは、他の人が試さないようなことにも意欲的に挑戦する選手だ。高気圧酸素療法に瞑想(めいそう)、そして「愛と平和」を指導哲学とする元テニス選手のグル、ペペ・イマズ(Pepe Imaz)氏。戦争に引き裂かれたベオグラードで育ち、使われなくなったプールで練習し、最多1億4000万ドル(約153億円)の賞金を稼ぎ出した現在、億万長者たちの遊び場モナコのモンテカルロ(Monte Carlo)を拠点とするジョコビッチにとっては、人生そのものが旅だった。

 かつてはジョコビッチも、ひ弱さを指摘された時期があった。つま先のまめや、前回チャンピオンとして臨んだ2009年の全豪での暑さなど、さまざまな問題を理由に棄権が続いたキャリア前半には、精神的なタフさが疑問視されたこともあった。

 ところが今では鋼のメンタルを備え、2012年の全豪ではグランドスラムの決勝史上最長となる5時間53分の死闘を制すと、2019年のウィンブルドン選手権(The Championships Wimbledon 2019)でも、5時間に迫る同大会の決勝としては過去最長の一戦に勝利して優勝を飾った。17回目の四大大会(グランドスラム)制覇を果たした今も衰えの気配はなく、優勝回数で上を行くロジャー・フェデラー(Roger Federer、スイス)とラファエル・ナダル(Rafael Nadal、スペイン)の二人を抜く可能性は高いように見える。

■植物は友だち

 ストレートな性格で知られるフェデラーとナダルとは対照的に、ジョコビッチは「ビッグ3」の中で最も謎めいている。米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)に載った記事によれば、夜明け前に家族と共に目を覚まし、日の出を眺め、それから家族とハグをして、歌い、ヨガを行うのが日課だという。

 グルテンフリーやデイリー(乳製品)フリーなどのさまざまな食生活を試し、現在はエグゼクティブ・プロデューサーを務めた米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)のドキュメンタリー「ゲームチェンジャー:スポーツ栄養学の真実(The Game Changers)」でもテーマにした「植物ベースのアスリート」であることを誇っている。今の食事法にして4年半がたつジョコビッチは、「僕を参考するスポーツ選手が他に出てきてくれたらうれしい。植物ベースは可能で、そうすれば回復が早くなり、力強さが増し、筋肉が付くんだ」と話している。

 決勝でドミニク・ティエム(Dominic Thiem、オーストリア)を退けた先日の全豪オープンでも、パーティーを催して8回目の大会制覇を祝うのではなく、メルボルン市内にあるロイヤル植物園(Royal Botanical Gardens)のイチジクの木に登れたことを喜んだ。「そこには友だちがいるんだ。ブラジル産のイチジクだよ。その木に登ってつながるのが好きで、多分僕にとって一番のお気に入りだ」。ジョコビッチはそう話したという。

 2008年の全豪で初のグランドスラム優勝を果たしたジョコビッチは、3年後の2011年からテニス界を席巻し、そのシーズンは開幕から公式戦43連勝を記録した。2011年から2016年にかけてのグランドスラムでは、全24大会中11大会で勝利し、準優勝も7回あった。フェデラーもこの時期はグランドスラム1勝しか挙げられず、他選手を寄せ付けなかった。

 ところが2016年の後半になるとキャリアが突如暗転し、不調に肘の負傷が重なって、2017年はウィンブルドン限りでシーズンに幕を下ろした。イマズ氏の教えに傾倒し、瞑想と人間の魂をテーマにした講演に一緒に登場したのはこの頃だ。

 周囲の人間によれば、完璧な何かを探し求め、さまざまなことを試していたジョコビッチに、その考え方がぴったり合っているのだという。全豪でも、ジョコビッチはそうした人生の目標について、それとなく口にしていた。

「若い頃は、ちょっとしたことにイライラしたり、怒ったりしていたが、人間はそうやって学んでいくものだ」「若いうちから完璧なテニス選手、完璧な人間になることはできない。だからこそ、人生というのはいとおしく、美しいんだ」 (c)AFP/Talek HARRIS